中国に立ち向かう国を支える…フィリピンに海自機を貸与へ 南シナ海問題への関与強める

 政府は2月29日、フィリピン政府と、防衛装備品・技術の移転に関する協定を締結した。この協定は、「防衛装備移転三原則」に基づいてフィリピンに防衛装備品を輸出する際の枠組みとなる。具体的には、政府はフィリピンに対して海上自衛隊の練習機を貸与する方針だ。これらの措置は、南シナ海問題への日本の「積極的平和主義」の取り組みに新たなページを開くものだ。同様の動きは東南アジア諸国連合(ASEAN)の他の加盟国との間にも広がっていくものとみられている。

◆東南アジアの国とは初の移転協定締結
「防衛装備移転三原則」の第3原則では、移転した防衛装備品・技術について、相手国がわが国の同意なしに勝手に目的外転用したり、第三国に移転したりしないよう、相手国政府に義務付けるよう定められている。協定はこの点を解決するもので、今回の締結でフィリピンへの武器移転のための条件が整った。安倍首相とフィリピンのアキノ大統領が、昨年6月の首脳会談で協定の交渉開始に合意し、11月の首脳会談で大筋合意に達していた。

 日本は、アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、インドとの間に同様の移転協定を結んでいるが、ASEAN加盟国と移転協定を結ぶのは、フィリピンが初となる。

 これまでに、日本はフィリピンに対し、沿岸警備隊が使用する40メートル級の多目的船10隻を、政府開発援助(ODA)を通じて提供することで合意している。今後は、フィリピンの必要とするものが防衛装備品であっても供給できるようになる。外務省は声明で、協定の締結は「わが国の安全保障に資することが期待される」としている。

 政府はインドネシアやマレーシアとも同様の協定を結ぶことを目指しており、両国との調整を急ぐという(NHK)。

◆移転協定に対して高まるフィリピン側の期待
 日本がフィリピンに貸与しようとしているのは、海上自衛隊の練習機「TC90」だ。この機は行動半径が700~800キロメートルあるという。現在、フィリピン海軍が警戒・監視に使用している機は、読売新聞によると、行動半径が約300キロしかなく、中国と領有権をめぐって争っている「スプラトリー(南沙)諸島全域を監視して戻ってくることは難しい」(政府筋)という。TC90にはレーダーなどは搭載されていないが、フィリピンにとっては一歩前進だ。

 当然、フィリピンの対中国の動きを強化するものとなるが、フィリピン側は、中国を刺激しないよう、抑えた発言をしていた。AP通信によると、協定締結に先立つ27日、フィリピンのガズミン国防相は、「この協定はどの国に向けたものでもなく、資金不足のフィリピン軍の軍事力のアンバランスを正すことを狙いとしたものだ」と語った。AP通信はこの発言について、中国の敵対的な反発を引き起こすことを避けるための努力のようだった、とコメントした。

 ガズミン国防相は、フィリピン軍は現在、インテリジェンス、監視、偵察の能力向上を必要としている、とも語った。

 またAP通信によると、フィリピンの安全保障担当の高官が協定について、日本による新たな軍事装備の販売、防衛技術の移転、中古の軍事装備の贈与、フィリピン軍への防衛訓練の提供に道を開くだろうと語った。この協定は「単に装備の移転または販売という垣根を越えて、多くの機会に門戸を開く」と期待を語ったそうだ。

◆着実に進む日本とフィリピンの関係強化
 AP通信は、日本とフィリピンが近年、防衛協力を強化していることに焦点を当てている。例えば、日本の海上自衛隊とフィリピン海軍は昨年6月、スプラトリー諸島付近で、災害時の海上での捜索救難の共同訓練を行った(この訓練は中国政府を怒らせたとAP通信は語る)。それも含めて、日本とフィリピンは、安全保障と政治面での結び付きを新たな段階に公然と引き上げている、とAP通信は語っている。

 ドイツの国際公共放送ドイチェ・ベレ(DW)も、両国間の安保協力が拡大していることに触れている。日本とフィリピンは(2011年9月以来、「戦略的パートナーシップ」の関係とされたが)、2015年6月には「強化された戦略的パートナーシップ」に格上げされたことを伝えている。

◆日本が特にフィリピンに肩入れする理由
 日本がフィリピンにこれだけ肩入れしているのは、当然、日本の国益のためである。DWは、協定締結に先立つ24日の記事で、日本が中国との関係悪化を機に、東南アジア諸国とは経済面、安全保障面での関係強化を図るようになったいきさつを詳しく解説している。

 その中で、安全保障面については、日本は南シナ海での中国の影響力を押し戻すために、ASEANとの関係強化、なかんずく、中国の振る舞いに対して恐れずに立ち向かうことをいとわない国々との関係強化を積極的に求めている、としている。「日本の安保協力が主としてフィリピンとベトナムに向けられているのは、これが理由で、この2国は南シナ海で中国と深刻な領有権問題を抱えているからだ」と、米諮問グループ「バンテージ・ポイント・アジア」CEOで中国軍の専門家のクリステン・ギュネス氏は語っている。

 DWは、東南アジア諸国にとっても、日本とのより緊密な関係は「お互いに有益な絆」だとして、日中間のライバル関係がそれらの国にとって有利に働いているとの専門家らの見解を紹介している。それらの国が日本の接近をプラスに受けとめている主な理由は、やはり、中国の振る舞いに対する強い警戒感だ。

 日本は近い将来において、ASEANへの影響力を増すため、軍事面と経済面でのインセンティブの組み合わせを今後も使用し続けそうだ、とギュネス氏は語っている。

Text by 田所秀徳