日本の潜水艦売り込みが加速、来日豪外相に猛プッシュ 中国は「歴史を考慮せよ」と牽制
オーストラリアのジュリー・ビショップ外相が15-16日、来日した。豪メディアは、ビショップ外相は滞在中、同国の次期主力潜水艦を日本の「そうりゅう」型に決めるよう、盛んに売り込みをかけられたと報じている。一方、続けて訪問した中国では、会談した王毅外相が日本の動きを牽制。潜水艦の選定に際しては「歴史問題」を十分に考慮するよう、ビショップ外相に進言した。
先日、衛星写真によって南シナ海のパラセル(西沙)諸島に中国の地対空ミサイル部隊が展開していることが明らかになるなど、アジア太平洋地域の軍事的緊張はさらに高まっている。そうした中、中国は豪潜水艦選定問題でも日本を牽制しながら強気の姿勢を示している。オーストラリアは今のところ「中立」を強調しているが、日本にもさらにデリケートな駆け引きが求められそうだ。
◆「防衛戦略上の効果」をセールスポイントに売り込み
豪紙オーストラリアンは、ビショップ外相は「2日間の東京訪問で、安倍晋三首相を含む日本のあらゆるレベルから、潜水艦の強い売り込み(hard sell)を受けた」と報じている。岸田文雄外相、中谷元防衛相との会談では、両国の戦略的な利益のためにも、日本製の「そうりゅう」に決めるべきだと諭されたという。
オーストラリアは、老朽化している国産の潜水艦部隊を2020-30年代までに12隻の新型潜水艦に更新する計画を立てている。現在、日本、フランス、ドイツがそれぞれの最新鋭通常型潜水艦で契約獲得を争っており、豪政府は「今年中に勝者を決める」としている。三つ巴の競争が佳境を迎える中、ビショップ外相訪日を伝える豪メディアは「日本は売り込みのピッチを上げた」(オーストラリアン)といったトーンで一斉に伝えている。
日本側はビショップ外相への売り込みに際し、南シナ海などで中国の海洋進出が活発化する中、オーストラリアと同盟関係にあるアメリカ、日本との防衛戦略上の連携強化の面でも、米海軍・海上自衛隊と共通の通信システムなどを持つ「そうりゅう」が有利だという点を強調した。また、日米豪の同盟強化を内外に示す政治的な効果もアピールしたようだ。豪紙シドニー・モーニング・ヘラルド(SMH)は、「日本は、地域の緊張が高まるなか、次期潜水艦の選定は、両国にとって緊急の重要課題だと強調した」と伝えている。ビショップ外相自身も、岸田外相との会談後、「日本は、(潜水艦)契約の戦略的重要性を強調した」と記者団に答えている。
◆豪外相はあくまで「中立」を強調
日本の猛売り込みに対し、オーストラリア政府は、「決定はあくまで競争原理に基づく公平な判定を経て行われる」(SMH)と、あくまで中立を保っている。ビショップ外相も、記者会見で「オーストラリアは、能力、クオリティ、コスト、そしてオーストラリアの産業のニーズを保証する国際的なパートナーを探っている」と述べるにとどまり、特に日本を意識したリップサービスはしなかった。
また、「アメリカは日本製を選ぶことを望んでいるが」という質問が日本の記者から向けられたが、ビショップ外相は「アメリカは公式に、決定権はオーストラリアにあることを認めている」と答え、アメリカの「そうりゅう推し」を否定。ここでも「中立」を強調した(オーストラリアン)。
ビショップ外相は、中国の南シナ海での人工島建設・軍備拡張問題についても、直後の訪中を意識してか、日本との協力については次のように言葉を濁している。「日本が我が国に、もっと多くのことを求めているかどうかは、問題ではない。オーストラリア自身がどうしたいかが問題だ。オーストラリアは、既に南シナ海における(周辺各国の)異なる主張に対し、平和的解決を提唱し続けることを明言している」(SMH)
◆中国は「日本は敗戦国」と牽制
ビショップ外相は、東京を去った後、その足で北京入り。日本の売り込みに対する中国の牽制は、素早かった。外相会談で王外相は「日本は敗戦国だ」と、戦後、日本が平和憲法により武器輸出を厳しく制限されてきたことを強調。そして、「そうりゅう」に決めることは「日本との軍事協力」を意味するとしたうえで、決定に際しては「歴史的背景と、(第二次大戦で)アジアの人々が被った感情を最大限に考慮することを望む」と述べた。
また、王外相は、オーストラリアが日本から潜水艦を買うことを決めた場合、中国の海洋進出に影響はあるかと記者に問われると、それをきっぱりと否定した。「私はそれ(中国の軍事力に対抗すること)がオーストラリアの政策の意図だとは思っていない。また、我が国の台頭を止めることのできる国・軍隊は世界に一つもない」(ガーディアン)。
ビショップ外相は、衛星写真によって発覚した中国軍によるパラセル(西沙)諸島への地対空ミサイル配備について、西側の高官として初めて中国側に直接言及した。これについても、中国は強気だったようだ。ビショップ外相は楊潔チ国務委員(外交担当・副首相級)との会談後、「中国側はミサイル配備を否定も肯定もしなかった」と記者団に語った。その後、楊氏は「ビショップ外相に南シナ海の島々は古来から中国の領土だったことを説明した。中国が自国領内に設置した限定的な防衛施設は軍事化とはまったく関係がない」とする声明を出した(ロイター)。
ガーディアンは、オーストラリアは今、最大の貿易相手国である中国と長年の軍事的同盟関係にあるアメリカとの間で、「デリケートな局面を迎えている」と記す。日本が潜水艦の売り込みで「防衛戦略上のメリット」を打ち出せば打ち出すほど、オーストラリアを板挟み状態に追い込んでしまう恐れもあるのではないだろうか。
写真出典:外務省ホームページ