「南京大虐殺」登録、米中韓メディアの反応は? 中国「日本の嘘を論破」と勝利宣言

 中国が申請した「南京大虐殺の文書」が、ユネスコ(UNESCO=国連教育・科学・文化機関)の世界記憶遺産に登録された。これに対し、殺害された市民の人数など中国の主張に異議を唱える日本政府は、登録を不服とし、ユネスコへの分担金の停止・削減を検討する考えを示した。菅義偉官房長官は13日の記者会見で、ユネスコの決定を「中国側の一方的な見方のみを反映したもの」などと批判。APなど主要海外メディアも菅官房長官の一連の発言を伝えている。

 一方、中国国営メディアはユネスコの決定を歓迎するとともに、日本政府の反応を「ナショナリストの日本政府は、デタラメな動きで面子を守り、恥をごまかそうとしている」(新華社)などと一斉に批判している。また、韓国メディアでは、中国が記憶遺産に同時申請し、登録が見送られた「従軍慰安婦」の資料について、再申請の動きに期待する論調が目立っている。

◆米メディアは中立的なスタンス
 CNNは、「南京大虐殺の文書」の世界記憶遺産登録は、「北京には歓迎されたが、東京には酷評された」と報じる。APも、日中双方の言い分と動きを公平に伝えている。

 菅官房長官は、ユネスコの審査過程について、「秘匿、秘密の中で行われている。日本政府としてどんな文書が出ているかさえ見ることが出来ていない」と、その不透明性を批判した。また、中国の一方的な見解のみを取り入れた今回の決定は、政治的な問題に発展する恐れがあると懸念を示した。そして、抗議の手段としてユネスコに対する分担金の拠出を停止・削減することも検討していると述べた。昨年の日本の分担金は約37億円。分担率は約11%で事実上世界最大だ。最大拠出国だったアメリカは、パレスチナのユネスコ加盟に反発し、分担金の支払いを停止している。

 一方、中国外務省の報道官は、「中国は、(登録された)文書が広く認められた価値の高いものだと保証する」と、文書の信憑性を強調。中国国営新華社通信によれば、文書は、1937年から1948年の間に記録された11組の映像、写真、文章で構成されているという。また、APによれば、中国はユネスコに、戦後の中国軍事法廷による戦争犯罪人裁判の資料も提出したようだ。

◆南京は「中国のアウシュビッツ」?
 新華社は、「南京大虐殺」が、ユネスコのお墨付きを得たことで、「人類の記憶の重要なエピソードが守られ、日本の極右の嘘が論破」されたと、ユネスコの決定を歓迎する。南京にある『南京大虐殺紀念館』の学芸員も「これからは、虐殺を否定するいかなる動きも無益となる」と“勝利宣言”している。

 新華社によれば、登録された文書の内容は、「複数の被害者への詳細なインタビューの記録」「アメリカの牧師、ジョン・マギーによる映像記録」「日本兵自身による虐殺やレイプの写真」などだ。「南京のシンドラー」と呼ばれるドイツ人商社員、ジョン・ラーベの日記も、虐殺の有力な証拠として提示されたとしている。同メディアは、「日本の極右は否定したいだけするがいい。しかし、残りの全世界は、1937年12月の南京で何が起きたか、よりはっきりとした真実を知った」と記す。

『なぜ世界は南京大虐殺を永遠に記憶しなければならないのか』という新華社の別の論説記事は、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺と南京事件を同列に扱う。同記事は、「南京大虐殺」を「中国のアウシュビッツ」と表現し、南京がアウシュビッツ(ユダヤ人強制収容所・1979年に世界記憶遺産に登録)と並ぶ人類の負の遺産として認められたと登録を歓迎する。また、『南京大虐殺紀念館』の壁に掲げられた「犠牲者300000」のレリーフの写真を添え、30万人の市民が日本兵に虐殺されたという中国側の主張を強調。「南京文書」を『アンネの日記』になぞらえた表現も多用し、日本の戦時中の行為や最近の安保法制の動きを批判している。

◆韓国メディアは「慰安婦」の共同再申請に期待
 中国は、「従軍慰安婦」に関する文書も合わせて記憶遺産に申請していたが、こちらは登録が見送られた。しかし、中国政府は外務省報道官コメントを通じて、「ユネスコから他の被害国との共同申請を勧められた」だけで、完全に却下されたわけではないと主張している。

 複数の韓国メディアがこのコメントを報じ、韓国の共同申請参加に期待感をにじませているようだ。中央日報によれば、韓国外務省は「韓国側は現在、民間団体が旧日本軍慰安婦記録物の登録を推進している。ほかの国と共同登録する問題は推進団体の判断に沿って進められるだろう」と、この件に関して民間の意向を尊重する考えを国内メディアに示している。

 また、「南京大虐殺の文書」の登録について、朝鮮日報は、中国の申請の動きは、2013年の安倍首相の靖国参拝以降、急速に進んだとしている。それによれば、「安倍首相の行動に怒った習近平国家主席が『登録を急げ』と指示した」のだという。

Text by 内村 浩介