安倍首相のジャマイカ訪問、現地が「真の狙い」を分析 国内は「レゲエ・ダンス」

 安倍晋三首相は、9月30日から10月1日かけ、日本の首相として初めてジャマイカを公式訪問した。日本の国内報道は、「安倍首相が夕食会でレゲエのリズムに合わせて踊った」といった表面的な報道が目立った。一方、現地メディアは訪問の「真の狙い」を分析するなど、シリアスな面を中心に報じている。ジャマイカでは、昨年来の日本のカリブ諸国への急接近の裏には、経済的影響力を強める中国への対抗意識や、国連常任理事国入りに向けた票の確保などの狙いがあると見られているようだ。

◆日本メディアは「レゲエ・ダンス」に注目
 安倍首相は現地時間30日正午過ぎにジャマイカ入りし、空港でシンプソン=ミラー首相らの出迎えを受けた。続いて、首都キングストン市内の国立英雄公園に出向き、戦没者慰霊碑に献花。その後、首脳会談に臨んだ。

 両首脳は、首脳会談の後に発表された共同声明で、「海洋国家である両国共通の課題に対処し基本的価値観を共有すること」などを確認したと述べた。また、昨年の日・CARICOM(カリブ共同体)首脳会合で日本が表明した「対CARICOM政策の3本柱(1.持続的発展に向けた協力、2.交流と友好の絆の拡大と深化、3.国際社会の諸課題の解決に向けた協力)」に沿った協力と促進に向け、お互いに尽力することを約束した。また、両首脳は、日本からジャマイカの自然史博物館にコンテンツ制作機材を、児童館及びレクチャーホールにコンピューターラボ機材や音響機材等を供与する5810万円の一般文化無償資金協力に署名した。

 その後、安倍首相はシンプソン=ミラー首相の案内でレゲエの神様を讃えた「ボブ・マーリー博物館」を訪問。続く夕食会では、レゲエの生演奏に合わせてダンスも披露した。日本メディアは、『レゲエの本場、安倍首相ノリノリ?ジャマイカでダンス』(朝日新聞)、『ジャマイカ訪問中の安倍首相、夕食会でレゲエに合わせダンス披露』(FNN)など、このダンス・シーンを重点的に報道している。また、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の日本関連記者ブログ『Japan Real Time』でも、ジュン・ホンゴウ記者が、安倍首相のレゲエ・ダンスを茶化したトーンで取り上げている。

◆ジャマイカ紙は日本の支援の内容や安倍首相のコメントを紹介
 一方、ジャマイカメディアは、訪問のシリアスな面を中心に伝えている。主要紙ジャマイカ・オブザーバーは、共同声明で触れられた「3本の柱」を解説している。1つ目の<小島嶼開発途上国特有の脆弱性克服を含む、持続的発展に向けた協力>については、「ハリケーンや海面上昇といった特に小さな島国の共通の課題を、同じ島国の日本の経験と技術によって支援するものだ」と記す。日本は、ジャマイカに対し、自然災害対応の面でもさまざまな支援を約束している。

 同紙さらに、省エネ・再生可能エネルギー技術支援に関する安倍首相の次のようなコメントを紹介している。「ジャマイカはエネルギー確保に大変苦労している。昨年7月、私はシンプソン=ミラー首相からこの分野での協力を求められた。ジャマイカ同様、日本は多くのエネルギー源を輸入に頼っており、国際市場のエネルギー価格の変動に脆弱だ。しかし、日本は2度のオイルショックを経験し、省エネルギー技術と、再生可能エネルギーの生産技術を開発してきた。私は、これらの技術と専門知識を得ることは、ジャマイカの大きな利益になると思う」

 また、同紙にジャマイカの印象を問われた安倍首相はこう答えている。「日本人がジャマイカのことを聞かれたら、誰もが陸上、ブルーマウンテンコーヒー、レゲエとビーチの国だと答えると思う。ジャマイカは日本から地理的には遠いが、日本人は音楽やスポーツといったさまざまな分野でジャマイカを非常に身近に感じている」。一方、同紙は「ジャマイカにとっての日本」について、「国外で最大のレゲエフェスティバルが開かれており、メジャーなアーティストがツアーで必ず立ち寄る場所」と記す。また、「サウンド・システム(主に野外コンサートで使われるジャマイカ特有のオーディオ・システム)」の先進機器の供給国であることや、近年は国際的なレゲエダンス大会で日本人ダンサーの活躍が目立っていることにも触れている。

◆「真の狙い」は地域への影響力の構築と常任理事国入り
 別のジャマイカ紙「The Gleaner」は、社説で安倍首相訪問の「真の狙い」を分析している。同社説は、冷戦終結後、ジャマイカに影響力を与えたのはほぼアメリカとイギリスだけだったが、近年は中国が巨額なインフラ投資を通じて急接近していると指摘。ベネズエラも石油関連施設を通じて経済的影響力を強めているという。米英も、両首脳が今年相次いでジャマイカ訪問を果たすなど、影響力の維持に努めている。

 同紙は、安倍首相の初訪問は、中国や米英に遅れまいとする日本の意志の表れだと見る。そして、「日本はこの地域に友人が欲しいのだ。少なくとも、中国のアドバンテージを中和したいと思っているはずだ」と記し、歴史問題や尖閣問題といった日中のライバル関係に触れている。また、日本は国連常任理事国入りを目指すにあたって、14票を持つCARICOM諸国の取り込みに力を入れていると指摘。日本は、昨年7月に初めて日・CARICOMサミットをトリニダード・トバゴで開催するなど、政治的にもカリブ諸国に急接近している。中でもジャマイカはCARICOMの政治的なリーダーであり、今回の初公式訪問につながったと見ているようだ。

 同紙は、ジャマイカを「カリビアン・セクシー(カリブの美女)」にたとえ、「簡単に習近平や安倍に落とされるような女ではない」と、「援助」をちらつかせた各国のアプローチには慎重な姿勢だ。社説は、「押し売りは受け入れられないが、(援助の)浪費も良くない。信念と利のある幸せな結婚をするべきだ」と結ばれている。

Text by 内村 浩介