安保法案可決、賛否両論の海外 「東アジアの安定に貢献」「他にやるべきことがある」
安全保障関連法案が9月19日に参院本会議で可決された。この法案に関しては、海外のメディアでも日本の平和主義のスタンスを大きく方向転換させるものとして注目を浴びてきた。BBCやCNN、アルジャジーラなど、各国のメディアで「日本は平和主義を放棄しようとしているのか?」、「平和憲法を改める日本」などのタイトルが踊る。そのなかで、賛否双方の意見をいくつか紹介する。
◆東アジア地域の安定要素として働く
『Eurasia Review』はインドの独立系シンクタンク、オブザーバー研究財団の上級研究員のラジェスワリ・P・ラジャゴパラン氏による、安保法案の背景を解説した記事を掲載。同氏は、自衛隊の積極的な軍事的活動に対する議論は、安倍政権の発足から特に活発となったが、その背景には安倍首相の右派的な思想に加えて、オバマ政権下で顕著となったアメリカの同盟国への関与の低下があると述べる。特にアメリカは、安全保障面での責任の分担を日本に強く求めている。
尖閣諸島問題で中国との緊張が高まりつつ、北朝鮮の核ミサイル開発という懸念も抱えているなか、アメリカの積極的な支援を期待できない状態では、日本は独自の安全保障対策と外交政策を展開せざるをえなくなっている、と同氏は述べる。そして、日本の軍事的な活動に憲法の規制が外されるのならば、東アジア地域の安定要素として働くかもしれないとしている。
◆アメリカの期待とのギャップが摩擦の火種になる?
一方でロイターは、今回の法制化で日本は防衛面における歴史的な転換を行ったものの、”普通の国”からはほど遠い、とする記事を掲載した。今回の法制の結果、日米が中国に対する将来的な計画を合同で立てることができるようになるものの、”普通の国”のようにイスラム国などへの軍事作戦には参加できない、というわけだ。
そのような状態はアメリカの期待に完全には応えておらず、今後の日米関係の摩擦の火種となる可能性があるのではないか、と一部の日本人が懸念しているという。海上自衛隊の関係者は「アメリカが求めたことは、ほとんど可能になった。しかしアメリカが本当に求めているのは、日本が対テロ戦争に参加することだ」(ロイター)と述べている。
◆人口問題の解決や近隣諸国との友好関係を図るべき
フォーブス誌には、明確に反対の意を示したコラムが掲載された。米国務省やシティバンクなどの勤務で日本に12年間住んだことのあるスティーブン・ハーナー氏のものだ。
氏のコラムでは、冒頭に日本の真珠湾攻撃を取り上げ、日本が軍国主義への道を進んでいる可能性があるのか、もっと喫緊の脅威があるのではないのか、という疑問を投げかけている。まず、前回行われた解散総選挙では、「アベノミクス」を争点の中心に置き、外交や防衛面での政策を巧妙に避けることで、周到に今回の安全保障関連法案が成立できる道筋を立てたことを批判。さらに、安倍首相は今回の法案により日本の安全保障を強化し抑止力を増加させると強調するものの、日本の安全保障や繁栄への脅威とは、中国やロシアの拡大主義的な動きではない、とハーナー氏は主張する。
では、日本の真の脅威とは何か。少子高齢化社会が進む日本で増大化する、移民の問題を氏は挙げている。人口が急激に減少していることを考えれば、移民が特効薬となると見る識者の意見もあるが、ハーナー氏は日本が大量の移民に門戸を開くことは大きな誤りとなるだろうと述べ、人口減少の問題に対処すべきとの見方を示した。さらに、近隣諸国と友好関係を築けていないことが、日本にとって大きな脅威であると氏は指摘する。そのため、安倍首相の「積極的平和貢献」は何の約にも立たない、と厳しい評価だ。