“一地域から世界全体へ”日米防衛新指針、米政府は日本の役割拡大を歓迎

 日米両政府は27日、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の改定で合意した。改定は18年ぶりとなる。集団的自衛権の行使を織り込んだことと、自衛隊の活動範囲に地理的制約を設けなかったことなどが最大の特徴だ。米メディアの報道では、アメリカからの強い期待が感じられる。ただし、米側が日本に期待する今後の活動範囲は、日本人が思っている以上に広いかもしれない。一方、中国国営新華社通信は、米政府は、愚かにも、魂を売り渡す協約を日本政府と結んだ、と語った。

◆アメリカでは日本以上に好反応で迎えられている?
 ケリー米国務長官は、新ガイドラインについて、日本と、日米同盟の、歴史に残る変化を表すものだと語った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が伝えた。「本日、日本が、自国領土だけでなく、必要に応じて、アメリカ、その他のパートナー国をも防衛する役割を確立したことを銘記します」「このガイドラインは、日本の安全保障を強化し、脅威を防ぎ、地域の平和と安定に寄与するでしょう」と語ったという。

 インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ(INYT)紙によると、米外交問題評議会のシーラ・スミス日本担当シニアフェローは、この協約を日本とアメリカの間の「非常に意義深い転換」と呼んだ。また、米上院軍事委員会委員長を務めるジョン・マケイン米上院議員は、この新ガイドラインを「歴史的節目」と称賛したという。

 新ガイドラインが決まった背景には、中国の問題があると多くのメディアが伝える。INYT紙は、合意がなされたのは、日米両首脳が、中国の経済的、軍事的脅威の高まりに対抗する取り組みを行っているときである、とした。また、この合意は、北朝鮮と、特に中国についての懸念を反映している、とし、中国の南シナ海での領有権主張と、軍事費増大が、近隣国を不安にさせている、と語る。

◆日本側が重視したのは、やはり尖閣問題?
 新ガイドラインにおいて、日本側が特に重視していたことは、尖閣諸島有事の際、アメリカの協力が得られることを明文化することだっただろう。新ガイドラインには、「島しょに対するものを含む」攻撃を排除する自衛隊の作戦を、米軍が補完すると明記された(時事通信)。

「中国が領有権主張を強めており、また、北朝鮮の核・弾道ミサイル計画の問題があり、日本は、多くの同盟国と同じく、米国の助けになりたがっています。日本が必要とするときに米国が助けになるようにするためです」と、戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長、アジア・日本部長のマイケル・グリーン氏はINYT紙に語っている。

 また、先述のスミス氏は、「これ(新ガイドライン)は、些細なことからたちまち大きな武力衝突になってしまう危険を予防するための、抑止と、反エスカレーションを目的とするものです」と同紙に語っている。

◆自衛隊の活動から地理的制約が取り除かれたことを最重要視する米政府
 しかし、アメリカ側からは、日本の領土・領海内に限らず、より広い範囲、世界のさまざまな地域での活動が期待されているようだ。

 米政府当局者らによると、新ガイドラインで最も重要な点は、自衛隊の活動に地理的制約がなくなり、国会の承認があれば、世界中で防衛行動に参加することができるようになることだという(実際には関連法制が必要)。WSJ紙が伝えた。同紙は、これまでのガイドラインは、たびたび改定されてきたが、日米の作戦行動は、主に日本の領土・領海の防衛に焦点を置いたものだった、と伝えている。

 カーター米国防長官は、「最新のガイドラインでは、地理的制約がありません」「これは、一地域から世界全体へと焦点が変わる、非常に大きな変化です」と語ったという。(アジア太平洋)地域と、世界中には、日米が協力しなければならないさまざまな問題がある、と語ったとWSJ紙は伝えた。

 カーネギー国際平和財団の日本・アジア専門家であるジェームズ・ショフ氏は、このガイドラインから、日本はやがて、国連による封鎖や武器禁輸の執行といった国際ミッションに、もっと関与できるようになるかもしれない、と語ったという。

 また、米当局者は、世界中での掃海作業、ミサイル防衛、サイバー攻撃への対処、偵察活動など、新ガイドラインによって協力の強化が可能になるさまざまな分野を列挙した、と同紙は伝えた。

 国内メディアでも、アメリカが日本に南シナ海での監視活動を期待しているようだということは、多く取り上げられている。

◆日本は信頼に値しないパートナー? 中国新華社が熱論
 時事通信は、新ガイドラインでは自衛隊と米軍の相互補完が一段と進むが、日米のこうした動きが中国を刺激し、地域の緊張をかえって高める可能性もある、との懸念を示している。

 その予兆ともいうべき中国側の反応が、国営新華社通信に現れた。新華社は中国国務院(内閣に相当)に直属し、政府および共産党の見解にのっとった報道をすることで知られている。そのウェブサイト新華網の論評記事「日米防衛協力の新ガイドラインは、東アジアに不安定さをもたらす」は、アメリカに、日本と新ガイドラインを合意したことを後悔させよう、と文学的な修辞を交えて力説している。

 日米防衛協力の新指針を発表することで、米政府は愚かにも、魂を売り渡す協約を日本政府と結んだ、と記事は切り出す。日本政府には、近隣諸国を疎んじ、東アジアの不安定を生み出す習癖がある、としている。

 18年ぶりとなるガイドラインの改定は、日本の自衛隊に、地域および世界レベルで、より野心的で自己主張的な役割を認めた、と記事は語る。この形容詞は、たまたま、近頃中国に対してよく使われる表現だ。

 米政府は日本を「アジアへの軸足転換」戦略を増強するための道具として利用したがっている。しかし、抜け目のない計算をするアメリカも、今回は見込み違いをした。やがては、常習犯的なトラブルメーカーの日本を、盲目的に信頼したつけを払うことになるだろう、と記事は断じている。

 日本の戦争を好む熱意は、歴史によってたびたび証明されているが、アメリカは実際のところ、この戦争挑発者を大胆にし、自分たちの背中を守るよう頼むことになる、と記事は警告する。

 アメリカは日本を利用するが、安倍首相の側からは、米政府は首相の夢を実現するための道具と見なされている、と記事は語る。防衛指針を改定することは、安倍首相が日本の平和憲法を再解釈するのに、極めて重要な一段階だ、としている。この指摘にはうなずけるところがある。安全保障法制の国会での成立に先立って、それをすでに新ガイドラインに盛り込んでいることには、国内メディアでも批判がある。

 しかしその後の、1941年の真珠湾攻撃の前に日本が米政府に対して行った外交詐欺という苦い記憶を考えると、世界中の誰にも、アメリカにすらも、完全に武装した日本がどういう意図を持つようになるかは、はっきりとは分からないだろう、という主張が、今日、説得力を持つとは思われない。

Text by NewSphere 編集部