「過去の総括が和解の前提」メルケル首相、安倍首相への忠言? 海外報道
ドイツのメルケル首相が、9日より2日間の日程で訪日した。訪日は2008年以来となる。9日には、朝日新聞東京本社内ホールにて、同社などが主催する講演会で講演を行った。メルケル首相はその中で、ドイツが戦後、周辺国と和解することができたのは、フランスなどドイツの被害をこうむった国の寛大さのおかげであると同時に、ドイツが自分たちの過去にきちんと向き合ったからだ、と語った。
◆自分たちの過去に率直に向き合うことと、周辺国の理解が不可欠
AP通信によるとメルケル首相は講演で、ドイツは、第2次世界大戦中に自国が行った残虐行為にきちんと向き合うという取り組みのおかげで、国際社会で尊敬される地位に復帰することができた、と語ったという。
ドイツがどうにか名誉を回復できたのは、元敵国側に、ドイツは自分たちの過去と向き合ったと認める気があったおかげだと、メルケル首相が語ったと英ガーディアン紙は伝える。
メルケル首相は、戦争とホロコーストの惨事にもかかわらず、ドイツが国際社会に復帰するのを受け入れた周辺国の寛大さに、ドイツはいまでも感謝している、と語ったという(AP通信)。
「もし周辺国によるこれらの寛大なそぶりがなかったならば、このこと(和解)は不可能だったでしょう」「しかしながらドイツ国内にも、自国の歴史と、きちんとまっすぐに向き合う心構えがありました」(ガーディアン紙)
◆安倍首相の70年談話に海外メディアが示す懸念
海外メディア4社(ロイター、AP通信、BBC、ガーディアン紙)はおしなべて、メルケル首相の発言を、安倍首相に対する忠言と見なしたようだ。
どのメディアも、安倍首相が今夏、戦後70年談話を発表することを紹介する。安倍首相はその談話で、戦後50年の「村山談話」、戦後60年の「小泉談話」で使用されてきた「植民地支配と侵略」への「痛切な反省」、「心からのおわび」といった文言を、もっと弱い表現に置き換え、謝罪の意を薄めるのではないかとの憶測があると、ロイター以外の3社は非常に似通った表現で伝えている。
海外メディア各社は、今回のメルケル首相の発言と同等かそれ以上に、安倍首相が今後行う発言に注目しているようだ。談話の表現次第では、安倍首相は、中国、韓国との関係にさらなるダメージを与える危険を冒す、とガーディアン紙は語る。多くの海外メディアで、もはや通念化している安倍首相のイメージは、そういった懸念を呼ぶものとして語られている。
◆海外メディアによる安倍首相評
AP通信によると、安倍首相は「修正主義のタカ派と見なされている」。英BBCによると、「タカ派の見解で知られている」。日本と中韓との関係は、安倍首相が就任した2012年以来、特に緊張が高まっている。安倍内閣は靖国参拝を中韓から公然と非難されている。また、アジアの女性を強制的に性奴隷にしたことに対する、1993年の日本の画期的な謝罪(「河野談話」)を再検証しようとしたことも、猛烈な非難を招いた、とBBCは語る。
安倍政権のもと、日本では、戦中の残虐行為を実際よりも軽く見せる取り組みが強まっていると見られている、とAP通信は語る。
安倍首相は、何万人という主にアジア人女性を強要して、戦時の性奴隷として働かせるのに日本軍が果たした役割と、20世紀前半に日本がアジアで行ったことは侵略だったという大多数が一致している見解を問題視することによって、日本国内で歴史修正主義を新たに活気づかせるのに加勢している、とガーディアン紙は語る。
またBBCは、日本の歴史の学校教科書は、自国の戦中の残虐行為についての真実を糊塗しているとして、長らく批判されている、と語る。日本と中韓の不和という問題は、安倍首相が集団的自衛権としてその正当性を主張している日本の軍国化への動きによっても、また領有権主張によっても、一層重くなっている、としている。
◆中国、韓国にも和解を妨げる政治的要素が
メルケル首相の講演では、相手国の寛容さも、和解の成功には重要だということがほのめかされていた。メルケル首相は日本の周辺国も、和解の雰囲気に溶け込む必要があるとほのめかした、とガーディアン紙は語る。
日中韓が戦争の影響をいまだに抜け出せていないのは、日本の保守政治家が過去の謝罪にしばしば疑念を投じているためで、日本に責任の一端があるものの、中国と韓国も、歴史問題が便利な政治外交カードとなり得るため、あえて緊張関係を維持させている、と主張している学者もいる、とロイターは伝える。
日本政府が見たところ反省に欠けているということを、中国および韓国政府首脳は、国内での支持を強めるために、不当に用いようとしている、とガーディアン紙は指摘する。日本が行った侵略戦争を、これまでよりも日本にとって好都合なように表現するという安倍首相の決意にも、同様の意図がある、と同紙は見ているようである。