「日本版CIA」設置に向け始動 “非効率で危険”な諜報活動変えられるかと海外紙
イスラム過激派組織「イスラム国」(ISIL)による日本人人質殺害事件を受け、政府・自民党内で日本の諜報能力強化に向けた議論が本格化し始めた。自民党の『インテリジェンス・秘密保全等検討プロジェクトチーム』(PT=座長・岩屋毅衆院議員)は近く、米国の中央情報局(CIA)や英国の秘密情報部(MI6)のような独立した情報機関の設立も視野に入れ、議論を重ねていく方針だ。一部の海外メディアも、この日本の新たな動きに関心を寄せている。
◆今が“日本版CIA”設立のチャンス
PTは、内閣の国家安全保障会議など既存の情報収集部門の強化も探りながら、独立した情報機関の新規設立も視野に入れ、秋までに提言をまとめる方針。それまでに米英の専門家の意見を聞くほか、夏には英国の情報機関を視察する予定だという。
外交誌『ザ・ディプロマット』は、「日本の情報力の欠如を表す特に深刻な失態」として、1999年から2003年まで、当局が全くのノーマークで国内にアルカイダ系組織幹部の潜伏を許していた件を挙げている。併せて、「日本には外国の情報に頼る以外の選択肢はない。もし日本でテロ計画が立てられれば、現在の体制では実行を防ぐことはできないだろう」という警察庁幹部の言葉を紹介している。
安倍首相は先週、国会で「国が戦略的な判断をするためには、政府の諜報機能を強化し、より正確に素早く情報を集めることが不可欠だ」と発言。これを取り上げた『ザ・ディプロマット』は、従来からの首相の主張に沿った考えだとしながら、「これまでは市民の反対が情報機関の設立を妨げてきた」と記す。ただし、人質事件を境に「そうした反対論は弱まってきているようだ」と、今が“日本版CIA”設立に向けた「次のステップ」に踏み出すチャンスだとしている。
◆各国との連携のためにも独自の情報機関が必要
一方、ストレイツ・タイムズは、日本はこれまで、しばしば諸外国の情報機関との“分業”を提案してきたと記す。日本がアメリカやイギリスにアジアの情報を提供する代わりに、中東をはじめとする他地域の情報をもらうという考えだ。しかし、日本の情報収集は下手に身分を偽った外交官が行う効率が悪いばかりでなく危険なもので、「中国の情報ですら、日本の情報は米英よりも質が劣る」ため、情報交換のメリットを見い出せない各国情報機関はそれを断ってきたと同紙は報じている。
これについて、安倍首相は5日の参院予算委員会で「各国の情報機関から情報の提供を受けるためには、我々自身の情報収集能力を高めていかなければならない」と述べた。各国から“見返り”を得るには、それに値する質の高い情報が必要で、そのためにも独立した情報機関の新規設立や既存機関の強化が必要だという考えだ。
こうした安倍政権の方針を受け、『ストレイツ・タイムズ』は、「日本が対外諜報能力を得るまでにはある程度時間がかかるだろう」としながら、そこに向かう動きは「もう止められない」と見ている。そして、今は安倍首相がイスラム過激派のテロをその口実に利用しているとしても、「将来的な諜報活動のメインターゲットは中国になるだろう」としている。
◆日本の対テロ第一人者は“内閣情報宣伝局”の設立を提案
2013年12月に内閣に置かれた国家安全保障会議をはじめ、それ以前からも警視庁公安部外事3課など、日本にも既に対外情報収集を主任務とする部署は存在している。しかし、『ストレイツ・タイムズ』は、「それぞれがお互いに協力することよりも、自らの特権や権力を守ることに力を入れている」と、各部署が「機能不全に陥っている」と指摘する。また、各部署が集めた情報を一つにまとめる機関がないことも問題視している。
こうした既存部署の一つである「内閣安全保障室」(中央省庁再編に伴い2001年に廃止)の初代室長、佐々淳行氏は、産経新聞に寄せた論説で、首相直属の独立機関の創設を提案している。同氏は、「日本には、首相直属の積極的情報機関がない。高度な情報能力を有する米CIAや英MI6(中略)などの情報機関に全面的にいつまでも頼っていてはいけない」と、今回の人質事件で“首相直属の内閣情報宣伝局(仮称)”の創設の必要性を思い知らされたという。
佐々氏は警察庁時代に、日本赤軍による1970年代の一連のテロ事件(よど号、ドバイ、シンガポール、スキポール、クアラルンプールなど)を担当。「身代金を支払ったことは一度たりともなかったし、獄中の赤軍派などのテロリストらをひとりも釈放していない」と胸を張る。そのうえで、ISISの要求に対する安倍首相の「毅然とした陣頭指揮」を評価し、そうした態度を貫きながら人命を優先するためにも、対外情報機関の設立は不可欠だとしている。