ピケティ・ブームはアベノミクス行き詰まりが背景 “実践的でない”と米識者批判も
経済学書としては異例の世界的ベストセラー、『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティ氏が来日し、講演会や政治家との会談を行った。同書の日本語訳は昨年12月に出版され、10万部を超える売れ行きだ。
同書は格差について、過去300年分のデータをもとに「資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す」ことを論じる。同氏は資本主義を支持しつつも、結果的に生じる持続的な格差に対し、より民主主義的な支配の回復を説く。同書では、グローバルな資本に対する累進課税を提案している。
同氏の来日は、フィガロなど地元フランス紙や、米メディアも報じている。背景には、アベノミクスへの行き詰まり気配、打開策への期待があると見られている。
◆ピケティ氏が日本経済について語ったこと
ピケティ氏は日本の経済について、4日間の日本滞在中に、以下のようにコメントしている。アベノミクスや消費増税には懐疑的のようだ。
・アベノミクスの潜在的なリスクは、資産インフレ。物価を上昇させるなら賃金を増やすしかない
・一国の年金の運用方法として、リスクの高い投資や複雑な金融派生商品がふさわしいかは疑わしい
・消費増税は、日本の不平等を改善するのに適切な方法ではなかったと思う
・若い世代や低収入者の税負担を減らし、資産税や富裕税といった税は累進制にして税率をあげるべき
・雇用形態や男女による待遇の違いが、少子化のような日本の将来を左右する大きな問題の原因になっている
WSJは、政治主導のアベノミクスに対し、「ピケティ氏の著書を参考にすることもできるはず」との見方を示した。
◆ピケティ氏への厳しい批判も
一方、日本の金融に詳しいスティーブン・ハーナー氏は、フォーブス誌で、ピケティ・ブームとも言える現状に対し、「アベノミクスが行き詰まりの気配を見せ、日本の知識人は新しい道を探っている」ことが背景にある、と指摘した。
同氏は、ピケティ氏のアイデアを、日本にとって実践的な妥当性をもたない、と一蹴。「どの提案をとっても状況を悪化させるだけだ。彼の講演が早く忘れ去られることを祈る」と酷評した。
◆民主党は“完全に合致”?
なおピケティ氏は経済成長に反対しているわけではない。むしろ、大学への投資や、生産性と革新性の向上、人口増加などで成長を刺激することが必要だとしている。民主党の岡田代表との会談では、格差拡大への問題意識とともに、これらの見解についても意見が完全に合致したという(フォーブス)。
安倍首相は、ピケティ氏が提案するグローバルな資本課税強化について、「導入にあたって執行面で難しい」と否定的な見解を述べていた。