「邦人救出のための自衛隊派遣」可能にすべき? 憲法と諜報能力欠如が課題と識者指摘
邦人救出のために、海外に自衛隊を派遣できるようにするべきか。過激派組織「イスラム国」(IS)による日本人人質殺害事件を受け、こうした議論が政府与党内などで高まっている。ロイターなど海外メディアが報じている。
◆現行法で自衛隊が行けるのは領域国の「空港か港」まで
海外で邦人が今回のようなテロ事件に巻き込まれた場合、現行法では、自衛隊に許された活動は輸送に限られている。具体的には、その国や周辺国の空港か港までしか行けない。
政府の法整備の方針は、「テロ集団などに邦人が拘束されたケースで、その場所が現地政府の実効支配下にあって治安が維持され、かつ同政府の許可を得ることができれば、武力行使を伴わない警察力として自衛隊を派遣できるようにする」ものだという(ロイター)。
自民党の谷垣禎一幹事長は1日のテレビ討論で、「今の場合で言えば、領域国の救出活動に頼らざるをない。仮に領域国から日本も一緒になって救出しようと言われた場合、なす術ない」と発言。法整備に向けた議論を深めなければならないとの見解を示した。小池百合子元防衛相も、「国民を守るために必要な法整備がポイントとなる。今回の事件により、今後そうしたケースが増えるだろう。この議論はより重要になってくると思う」とロイターに語った。
ただし安倍政権は、既に昨年7月の閣議決定で、自衛隊による邦人救出の法整備を進めることを決めていた。
◆諜報能力がないため実行は不可能か
しかし、仮に法整備をしても、実際に日本が邦人救出作戦を遂行できるかどうかは別問題だ。ある防衛省関係者は、領域国の支配が及ぶ地域に“警察力”を送るのは、相手国の主権に関わる問題であり、同意を得るのが難しいとの見解だ。また、組織的な武装勢力がいる可能性がある地域では武力衝突につながる恐れがあり、現行憲法の枠内では自衛隊を派遣できないとの法解釈が維持されている点も障壁となりそうだ(ロイター)。
オウム真理教事件を契機に2004年に発足した陸上自衛隊の「特殊作戦群」が邦人救出に派遣される可能性が高いとしている。しかし、日本には海外諜報部門がないに等しいため、部隊の行動に不可欠な情報が得られず、実質的に作戦の遂行能力はないと、多くの現場関係者や識者は見ている。次世代の党の松沢成文議員は、「日本は、海外の情報をつかむ政府機関の創設を議論する時期に来ている」とコメントしている(ロイター)。
◆中国メディアは早速日本の動きを牽制
英・王立国際研究所のアジア情勢専門家、ジョン・スヴェンソン―ライト博士は、今回の人質事件に関しては、現行の憲法解釈と法律の範囲内で「全体的には安倍首相のアプローチは的を射ており、妥当だった」と評価する(BBC)。しかし、今後の自衛隊派遣などについては、戦後の日本国民の紛争への「アレルギー体質」や“平和ボケ”を背景に、広い支持を得るのは難しいと同氏は見ている。
一方、中国メディアでは、今回の事件により「安倍首相は自衛隊の海外派兵問題の突破口を開くための口実を得た」(新華社)といった論評が目立つと、時事通信が報じている。京華時報は、「戦争のない社会を作りたいと願った後藤さんの遺志を継いでいかねばならない」という後藤さんの母の訴えを強調し、日本政府の動きを牽制した。
先のスヴェンソン―ライト博士は、こうした国内外の批判や妨害をかわすために、「安倍首相は国民の支持を得るために政治的に抜け目なく動く必要がある」と論じている。