人質事件、「積極的平和主義」政策を推進?後退? 政府・国民の変化を海外メディア分析

 過激派組織「イスラム国」(IS)は1日、ジャーナリスト・後藤健二さんを殺害したとみられる動画を公開した。安倍首相は同日、「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために、国際社会と連携していく」と語った。

 本件が、安倍政権が掲げる「積極的平和主義」に基づく安全保障政策に対し、どのような影響を及ぼすのか、海外メディアが分析している。政府が促進させるという見方と、国民の反対で後退するという見方とがある。

◆推進続くとの見方
 まずAP通信は、日本は軍事的役割の拡大を継続させるだろう、との見方を示した。

 根拠は過去の経験だ。1992年のカンボジアへの自衛隊派遣では、ともに派遣された警察官1名が武装ゲリラに殺害された。2004年のイラクへの自衛隊派遣では、武装勢力が日本人を誘拐・拘束し、撤退を求める事件が相次ぎ、10月には1名が殺害された。こうした事件以降も、自衛隊は海外での活動を継続させてきた。

 またグラント・ニューシャム氏(日本戦略研究フォーラム上級研究員、元米海兵隊)は、下記のように語っている(タイム誌)。人質事件は、たとえ法改正を行っても、自衛隊に海外での日本人救出への装備も訓練も組織も欠けていることを明らかにしたものだ。実践面の改善だけでなく、心理面において、海外で同盟国と作戦を行おう、と思える変化があるかもしれない。

◆推進・反対両方の見方
 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、安倍政権の推進への意欲と、野党や国民の反対とのギャップに着目し、安倍政権の安保政策の道のりが、そう平坦なものではないことを示唆している。

 共産党の山下芳生書記局長は、「人道支援、非軍事分野といいながら、安倍首相は今回の事件を契機に、海外で戦争をする国づくりをいっそう推進、拡大しようとしている」と批判した。昨年12月の衆院選で、共産党は議席を倍以上に増やした。

 とはいえ集団的自衛権の行使を可能にする関連法案は、与党が衆議院で安定多数を得ているため、成立は確実だ。しかし、安保法案に反対する国民はかなり多く、首相はこれに政治的資産を費やすことになるかもしれない。公明党も、自衛隊の海外派遣を人道目的に厳格に限定することを望んでいる。

◆国民は安倍氏の安保政策への支持を弱まる、との見方
 タイム誌は、人質事件により、安倍政権の安保政策へ国民の支持が弱まるのでは、との見方も紹介している。ジェフリー・キングストン教授(テンプル大学ジャパンキャンパス、アジア研究学科)は、下記のように語っている。いったん高まる愛国主義は安倍首相に有利になるかもしれない。しかし、安倍政権の安保政策は日本を安全にしているのか、という国民の疑問に、安倍首相は直面することになる。

 またブラッド・グロッサーマン氏(米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)アジア太平洋部門)は、「戦後の日本人には、常に強力な撤退心理があり、それが(人質事件で)強化されてしまうのではないかと憂慮している」と述べている(タイム誌)。

 いずれにせよ、今後の日本の安全保障政策の議論を深めることは非常に重要だ。慶応大学のナンシー・スノー客員研究教授(慶應義塾大学)は、「日本の教訓は、世界の紛争から免れられる人はどこにもいないということだ」と述べ、その上で日本がどういった国になりたいのかについて、議論を深めることの必要性を示した(タイム誌)。

Text by NewSphere 編集部