日中関係、日米のようになれると海外識者期待 対日融和は“便宜的”との意見も

安倍首相・習主席

 11月10日、安倍晋三首相と中国の習近平国家主席が北京で首脳会談を行った。会談で両首脳が握手を交わした映像は各メディアに取り上げられた。これを機に、日中関係は改善が進むのか。海外各紙は、それぞれの見方を報じている。

◆歴史的に重要な日中首脳の握手
 アジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて行われた日中首脳会談で、安倍首相と習主席が握手を交わしたのは、今年の重大な事件のひとつであったことは間違いない、とウェブ外交誌『ディプロマット』は報じている。

 会談前には、日本が尖閣問題をめぐる領土問題があると認め、安倍首相が靖国神社への参拝を任期中に行わないと約束することが、会談のための条件になるとみられていた。日本側にしてみれば、容易な条件ではなかった。

 しかし、会談のまさに直前に、日中は両国が都合のよい解釈ができる“賢明な”合意文書を作り上げた。合意では、「日本と中国は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」とした。これは中国側からしてみれば、日本が正式に領土問題の存在を認めたと主張できる。一方日本にとっては、領土問題の存在は認めていない、と主張できる。靖国参拝については、結局明言されなかった。

 ニューヨーク・タイムズ紙では、東京大学大学院法学政治学研究科の高原明生教授が、両首脳がこの建設的曖昧さを認めたことは称賛に値する、としている。これを共有することで、東アジアの安定を一歩進める責任を果たした、と評価した。

 ディプロマット誌は、尖閣諸島の領有権問題で、お互いが合意に至ったのは、友好のための基礎作りというよりは、一時的な休戦のようなものだ、とみている。同誌は、中国の強大化が続けば、再び緊張緩和を放棄し、日本を悩ませることになるだろう、と警告している。

◆日本と中国は友好国となれる
 フォーブス誌では、スティーブン・ハーナー氏が、楽観的な見方を論じている。同氏は、日本とアメリカも戦争で敵対した過去を乗り越え、現在のように親密な関係を築いたことから、日中でもこのような関係が可能なのでは、としている。

 ハーナー氏は、キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)の瀬口清之氏の意見に賛同している。瀬口氏は、日経ビジネス・オンライン(11月19日付)で、中国の“サイレントマジョリティー”は、日本との関係を改善したいと欲しているが、その声は抑圧を受けており、日本に届いていない、と述べた。そして、良好な日中関係が、「100年かかるのか、200年かかるのか、わからない。しかし、可能性はあると考える」と期待を示した。ハーナー氏は、もっと近い将来に実現するだろうとみている。

 11月の両首脳の会談は、政治的障壁を取り除き、国家対国家、政府対政府の話し合い再開への道を開くものだった、とハーナー氏は評価している。これを証明する事例も挙げた。日本の海域でのサンゴの密漁に対し、12月7日からは罰金の額が大幅に引き上げられ、同罪の罰金の上限が400万円から3000万円となった。法の施行後21日に、初めて逮捕された中国人密漁者に罰則が適用されたが、中国側からこれまでのような非難はなかったという。前向きな日中間の協力が行われた事例だ、としている。

◆経済的切迫にやむを得ず軟化
 ハーナー氏は、日中関係改善の背景は、日本企業による中国への感情と投資の悪化が加速していることだ、と指摘している。中国商務部によると、2014年上半期、日本から中国への投資は前年比で48.8%も減少した。

 高原氏も、安倍首相は、習主席が微妙な立場であることもわかっている、と関係悪化で中国が経済的代償を支払わされていることを指摘した。

 さらにディプロマット誌も、中国への投資減少と経済ダメージが、敵対姿勢を和らげる影響を与える、とみている。同誌は、習主席とその周辺が、11月の政治的路線の変更について、経済の相互依存と巧みな外交という現実ではなく、中国の急速な経済成長のために日本の実際的な便宜が必要だったためと考えているだろう、と報じた。

Text by NewSphere 編集部