韓国の狙いは「Xバンドレーダー」か 日米韓の軍事機密共有 韓国の変心を米識者分析

 日本とアメリカ、韓国は29日、北朝鮮の核とミサイル計画についての機密情報を共有する覚書を締結した。日本と韓国は既に、アメリカとはそれぞれ個別に情報の共有を行っているが、日韓間では初めてとなる。2012年には、同様の機密情報の交換を可能とする「日韓秘密情報保護協定」が締結寸前まで行ったが、韓国世論の反対によりサイン当日になって一方的に破棄されていた。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、今回の動きを「ソウルと東京の緊張関係の雪解けを示す可能性もある」と報じている。しかし、韓国外務省は、日韓間の情報のやりとりは「あくまでアメリカを通して行われる」などとしており、その内容なあくまで“条件付き”にとどまっているという見方もある。

◆韓国防衛筋「対北関係に限定し、日本とは直接情報交換はしない」
 WSJなどによれば、韓国外務省は26日、日米韓が情報共有の覚書を締結する事に合意したと発表した。聯合ニュースはこれを受け、「匿名の韓国防衛筋が、週明けの29日に3ヶ国の副防衛大臣級がサインするとことを明かした」と報じていた。

 聯合ニュースによれば、その韓国の防衛当局者は、「情報の共有は、厳格に北の核とミサイル計画に関するものに限定し、文書、写真、デジタルデータといった形で行われる。我が国は日本と直接機密情報のやりとりはせず、アメリカを通じて行う」と述べたという。これが事実であれば、日米韓のシームレスな情報共有というよりも、実際にはアメリカを介した情報交換にすぎないという見方もできる。

 また、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、「ワシントンは、ソウルと東京が(歴史・領土問題の)立場の違いを横に置き、北朝鮮の脅威と中国の台頭に対抗するべく、安全保障上の同盟を強化することを望んでいる」としている。しかし、今回の情報共有が韓国サイドが言うように「厳格に北の核とミサイルに限定」されるのであれば、同紙が指摘する「対中国」の観点は含まれていないことにもなる。

 ◆韓国の狙いは「Xバンドレーダー」の情報?
 とはいえ、WSJは、2012年の「日韓秘密情報保護協定」破棄の顛末や、最近の冷えきった日韓関係からすれば、今回の動きは日韓の「雪解けを示唆する可能性もある」と記す。FT、そして同じくこのニュースを伝えたニューズウィーク誌も、2012年の動きを「韓国政府が反日世論に押された」などとしているが、それに比べれば今回は大きな前進だという見方だ。

 この韓国の“心変わり”を、ヘーゲル国防長官ら米当局の努力の賜物だとする見方もある。その一方で、ミサイル防衛の米専門家、リキ・エリソン氏は韓国が欲しかっているのは、日本国内にある米軍の最新型ミサイル早期警戒システム「Xバンドレーダー」の情報だとみている。

 同氏によれば、韓国はこれまで、日本は韓国が必要とするような有用な北朝鮮の軍事情報を持っていないと見ていたという。そのため、これまでは「日本に与えるだけになる」情報の共有を渋っていた。ところが、韓国内では賛否両論があり、配備に至っていない「Xバンドレーダー」が26日、日本国内2ヵ所目となる京都府内で稼働を始めたことにより、事情が一変したとエリソン氏は主張。韓国は、自国に配備して北朝鮮や中国を刺激するくらいなら、日本の「Xバンドレーダー」の情報をもらった方が良いと考えたのだというわけだ。

◆日本のメリットは韓国イージス艦情報による「+2分」
 一方、FTは、日本が韓国から欲しい情報は韓国軍のイージス艦が集める北朝鮮のミサイル発射情報だとしている。同紙は「アメリカと日本は長年、自衛隊が韓国艦のデータにリアルタイムでアクセスすることが、ミサイル防衛上必要不可欠だと考えてきた」と記す。

 同紙は、もし、韓国のイージス艦の情報を得ることができれば、日本が北朝鮮のミサイル発射に対処できる時間が「2分間増える」と、専門家は分析しているとしている。

 また、FT、WSJ、ニューズウィークはいずれも、北朝鮮の金正恩第一書記の暗殺を扱ったハリウッド映画『ザ・インタビュー』の公開を巡る北朝鮮の“攻撃”にも言及している。この現在進行形のアメリカへの敵対行為も、今回の覚書締結を促したという見方が強い。

Text by NewSphere 編集部