戦後70周年“安倍談話”が日中関係改善のカギ 「痛切な反省」盛り込めるか?海外注目

安倍首相

 先の衆院選で自民党が大勝したことで、安倍晋三首相が2016年までの長期政権を維持する可能性が大となった。右翼的な動きを見せる安倍氏を警戒する中韓だが、否が応でも中韓の指導者は安倍氏との関係を迫られている。安倍政権下での日中韓関係がどのような局面を迎えるのか、安倍首相の動向が海外メディアから注視されている。

◆「安倍談話」の内容がポイントに
 ブルームバーグは、まずは、安倍首相が第二次世界大戦後70周年となる2015年を首相として迎え、それに合わせて発表されるであろう安倍首相による談話が、今後の日中韓関係を左右するだろうと指摘。そこで問題となる、「南京事件(歴史認識)」と「従軍慰安婦」を軸に、日中韓関係の現状の分析を行った。

 南京事件においては、習近平主席が1937年の南京事件の記念式典で「歴史を忘却することは裏切り行為であり、犯罪を否定することは再び罪を犯す可能性があることを意味する」と述べたことを取り上げ、中国が日本の南京での虐殺を否定する動きを警告していることを伝えた。

 そして、ドイツのメルケル首相が、今年6月に行われた第二次世界大戦記念式典(ヨーロッパ戦線を終結に導いたノルマンディー上陸作戦70周年を記念する式典)に招待された一方で、東アジアでは日本の首相が招待されるような動きがまったくないことを伝え、東アジアが戦後の関係修復においてヨーロッパに大きく遅れを取っていることを指摘した。

 慰安婦問題では、ソウルの聖公会大学の梁起豪教授の言葉を引用し、従軍慰安婦問題が日韓関係改善の最大の障害となっていることを指摘。「朴大統領には日本との関係で何かしようという気持ちがあるものの、慰安婦をめぐる議論が問題になっている。安倍首相が韓国が受け入れ可能な提案をしない限り、関係改善を望むことは最終的には不可能だ」。

 そして、首相談話に「痛切な反省」を込めることで、日中韓関係は打開されるだろうと提案。米シンクタンク、スティムソン・センターの辰巳由紀主任研究員の言葉として、「歴史認識に関する堂々めぐりを終わらせることができるのは安倍首相しかない」を引用した。

 安倍首相の「さきの大戦の反省、そしてその後の戦後の歩み、さらにはこれから日本は国として地域や世界のためにどういう貢献をしていくんだということもきっちりと(談話に)書き込んでいきたい」との言葉も付け加えている。

◆日中双方の譲歩が尖閣諸島問題のカギ
 法務博士で、公共部門に関する研究・分析を行う政府関連のNPOであるCNAの上級法律顧問を務めるマーク・E・ローゼン氏が、アジア太平洋の時事問題を分析するサイト・『ディプロマット』に寄せた文では、日中双方の譲歩が尖閣問題の解決のカギとしている。

 2014年11月のAPEC首脳会議で、習近平主席と安倍首相による会見でホットラインや海上連絡システムの設置に合意したものの、そういった信頼醸成措置(偶発的な軍事衝突を防ぎ国家間の信頼を醸成するための軍事交流)の構築だけでは問題の解決とはならないと指摘。

 ローゼン氏は、国際法や国連海洋法条約に基く問題の解決を提案している。具体的には、尖閣諸島を「島」ではなく「岩礁」とすること、そうすることで尖閣諸島の領有権問題を棚上げし、その代わり2000平方海里のスペースを等分することで、日中両国の排他的経済水域や大陸棚の境界線を設定する、ということだ。

 日本は尖閣諸島を「島」ではなく「岩礁」と譲歩する、その代わり中国は日本による尖閣諸島の行政管理を黙認することを提案。日本は「岩礁」と譲歩することで、尖閣諸島の領有権が日本にあるとした場合より中国にスペースを明け渡すことになるが、行政管理を中国に黙認してもらうことで、国内の反対勢力に対してい「勝利」をアピールできる。

 そして、天然資源への優先権水域とされる領土から200海里の排他的経済水域や水深200mもしくは開発可能な深さまで権利を設定できる大陸棚の境界線を確定させることで、双方が境界線内の開発を進めることができるとしている。

 中国・日本に必要なのは、自分たちの対応を国際法に則したものにし、国際的に尊重されるような解決策を図るべき、とローゼン氏は促す。

◆強い経済相互依存が日中関係の緊張感和役に
 ユーラシア・レビューに寄稿した、立命館アジア太平洋大学の綛田芳憲教授は、日中の経済的相互依存が緊張関係悪化のストッパー役を果たすだろうと分析している。

 中国は、近年目覚ましい経済発展を遂げ、2010年には日本を抜いて世界第2位の経済大国となった。それに合わせて中国は軍備を増強させ、日本と領土問題に関する懸念が増大化し、また日本の歴史認識の問題などから、日中関係は急速に悪化したと述べる。

 しかしながら、日本にとって、中国は最大の貿易相手国であり、中国の成長余地のある市場は魅力的であるし、中国にとっても、日本は重要な投資国だと指摘。

 綛田教授は、日中双方の指導者も経済問題を無視しては自身の政権を維持できないとは承知しているので、両国の経済における強い相互依存がストッパー役として緊張悪化を食い止めるだろうとしている。

Text by NewSphere 編集部