圧勝安倍首相、軍拡・歴史問題に踏み込む? 米紙ら懸念、アベノミクス推進に疑問も
衆議院の電撃解散から1か月。14日に行われた衆議院選挙では、自民党が291議席を獲得して圧勝し、公明党の35議席と合わせ、衆院定数の3分の2を超える326議席を与党で確保した。
◆野党の不甲斐なさを露呈
海外各紙は自民党の地滑り的勝利を報道。自公が絶対安定多数を上回り、安倍政権が長期政権となる見通しを伝えている。
ただし、安倍首相が「アベノミクスへの信任投票」と呼んだ今回の選挙の結果を、文字通り受け止めるメディアは少ない。英ガーディアン紙は、ロイターのインタビューに答えたコロンビア大学教授のジェラルド・カーティス氏の「安倍政権への信任というより、野党への不信任」という言葉を引用。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)も、「他に1票を入れる価値のある政党がない」、「自民は民主よりまだまし」と話す有権者のコメントを紹介し、2年前の大敗後、野党がいまだに混乱しているという事実が、自民党勝利の最大の理由だと述べている。
また、52%という戦後最低の投票率は、組織力の強い自民党と、その地方での強力な集票マシーンには恩恵となった、と見ている専門家もいる(NYT)。
◆アベノミクスの改革は進む?
NYTは大勝後の安倍首相の出方に注目する。同紙は、アベノミクスが伸び悩んでおり、日銀に現金で経済をジャブジャブにさせる程度の政策になっていると指摘。首相は、選挙期間中、アベノミクスの今後に関し、はっきりとさせなかったが、今回の圧勝で、より持続性のある景気回復のかじ取りをし、公約を果たすという難しい課題に直面することになったと述べている。
ガーディアン紙は、労働者をクビにしやすくなる労働市場の規制改革や、農業者からの強い反対にあうTPPなど、首相が第三の矢である構造改革をやり遂げる気持ちがあるのかは疑問だとする。
NYTも、エコノミストたちは、市場を開放し、貿易や外国からの投資を増やすよう求めているが、約束された改革は、首相を支えた多くの既得権益を持つ団体への挑戦を意味することになるとし、その実行の難しさを示唆している。
◆保守化の進行を懸念
NYTは、今後は経済以外にも、首相が選挙期間中にはあまり話さなかった、軍事力拡大や歴史認識の問題にも踏み込んでいく可能性もある、というアナリストの指摘を紹介。ガーディアン紙も、今回の勝利によって、原発再稼動や軍拡などの、議論を呼ぶ政策推進への余地が与えられたと述べる。
ワシントン・ポスト紙の東京支局長、アンナ・フィフィールド氏は、安倍首相とその仲間の保守は、近隣国に対し今まであまりに弱腰だったと信じており、戦後に作られた日本の軍隊への足かせを取り払おうとするなど、首相は押しの強いアプローチを取ってきたと指摘。多くの人が、そのような変化は不要な衝突を引き起こすだけと考えている中、日本においてはかなり物議を醸しだす行動だと述べている。
◆意外な勝者
さて、野党最大の勝者は、何と言っても共産党であった。議席数を3倍の21議席とし、衆院で単独で法案を提出できるのに十分な数を確保。自公に不満を持つ反対票の受け皿となった(NYT)。