安倍政権の河野談話“無効化”を阻止せよ! 米識者、安保理常任理事国に要求(NYタイムズ)

 今年8月、朝日新聞が、慰安婦問題に関する自社報道の一部について、誤りを認め、記事を取り消した。政府はこれを踏まえ、慰安婦問題に関して国際社会に誤って伝わっている点について、積極的に訂正をしていきたい考えだ。とはいえ、一度根付いてしまった見方を覆すのは、容易ではないようである。

◆安倍首相は歴史修正主義者だという批判
 アメリカのアジア政策を研究する非営利研究センター「アジア・ポリシー・ポイント」のミンディ・コトラー所長による寄稿が、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された。コトラー氏は、安倍政権が行おうとしているのは「歴史修正」であるとして、これを厳しく批判している。

 コトラー氏によると、安倍政権は、日本軍が人身売買と強制売春の組織を運営していたことを否定している。それに関する歴史記録を、日本の評判を落とすための嘘の塊と評することに全力で没頭している。そして、この歴史修正が、日本の戦時の名誉と現在の国の誇りを回復するのに不可欠だと見なしているという。河野談話の効力を弱めることが、安倍政権の重要な目標であり続けているとしている。

 安倍首相は朝日新聞の記事取り消しに飛びついて、“性奴隷”という「根拠のない、中傷的な主張」を弾劾したが、それは、慰安婦問題に関するおびただしい量の、説得力のある話全体を否認しようと試みてのことだった、とコトラー氏は言う。

 国連人権委員会の「クマラスワミ報告」は、朝日新聞の記事で伝えられていた吉田清治氏の虚偽証言を引用していた。政府はクマラスワミ氏本人に、報告の一部撤回を求めたが、氏は拒否した。この件についてコトラー氏も触れているが、報告については、日本が戦時中に女性を強制的に性奴隷化したことの権威ある記述、と評した。

◆国連安保理の常任理事国は日本にきっぱりNOを突きつけるべき?
 戦時下のレイプと性的人身売買は世界中で問題のままだ。これらの虐待をどうにか減らしたいと思うのであれば、安倍政権の歴史を否定しようとする試みは、問題にしないわけにはいかない、とコトラー氏は主張する。国連安保理の常任理事国は、安倍内閣が非を認めずに、人身売買と性奴隷化の歴史記録を否定しようとするのに、はっきり反対しなければならない、と語る。

 とりわけアメリカは、同盟国である日本に、人権、女性の権利はアメリカの外交政策の柱であることを思い出させる責任がある。もしわれわれがはっきり言わなければ、われわれは日本の否定主義だけでなく、性暴力を含む戦争犯罪を終わらせるための、今日の国際努力を弱めることについても、日本と共犯ということになるだろう、と氏は訴える。

◆朝日記事と「クマラスワミ報告」の関係が問題点の一つ?
 フィナンシャル・タイムズ紙は、朝日の記事取り消しがさまざまな方面に影響を与えていることを報じた。同紙は、朝日新聞について、その名声と中道左派の立場から、日本のニューヨーク・タイムズとして知られる、と評する(なおニューヨーク・タイムズ紙は朝日新聞の特約海外新聞でもある)。

 記事の取り消しをめぐる同社の木村伊量社長の対応のまずさについては社内からも問題視されていて、辞任を求める声が上がっていたことを記事は伝える。また、日本軍が女性に強制的に売春させたということを否定するグループに、有利な情報を与えたことで、アジア地域の外交にも影響を及ぼしている、と語っている。そのグループには、安倍首相も含まれるものと思われる。

 朝日新聞がこれほど保守派を怒らせている理由の一つは、取り消された記事の核心にある吉田証言が、国連の画期的な報告「クマラスワミ報告」に引用されたがためだ。その報告では、慰安婦の苦境が「軍による性奴隷化」と表現されていた、と記事は説明する。

 また安倍首相は今年、河野談話の検証を指示したことで論争を引き起こした、と記事は伝える。安倍首相は結局、河野談話には手を付けずにおくことを選択したが、この検証は、彼が歴史修正主義者なのではないかという疑念を強化した、という。これは、安倍首相にはそのようなイメージがあり、首相によるアピールは何にせよ、そのようなバイアスのかかった状態で受け止められる恐れがあることをほのめかしている。

◆朝日の記事取り消しで日本の右派勢力が勢いづく?
 米クリスチャン・サイエンス・モニター紙は、朝日新聞の記事取り消しによって、日本では極右が勢いづいている、と伝える。慰安婦問題をより無害に見せることを追求する動きがあり、そのため河野談話が危機にさらされていることを伝える。

 記事では、当時の河野洋平官房長官が談話の中で、日本軍がアジアの女性を、強制的に「慰安婦」、性奴隷にしたと認めた、とされている。また、慰安婦の数を、歴史家が20万人と見積もっている、と述べている。一方フィナンシャル・タイムズ紙は、この20万人という人数が、慰安婦ではなく、日本人を含む挺身隊の数であったことを指摘している。

 記事は、自民党内に、河野談話を新たな談話で置きかえることを模索する動きがあることを伝える。安倍首相を含む日本の保守派の解説者と政治家は、河野談話に含まれる見解についての正当性を問題にするために、朝日新聞の記事取り消しに飛びついた。政治家らの追及によって、ことによると終戦70周年を迎える来年、新たな談話が出され、河野談話の謝罪が捨てられるのではないかという懸念が生じているという。

Text by NewSphere 編集部