「戦争に批判的だった」昭和天皇 『実録』公開で、海外メディアは大戦前後の記述に注目

 宮内庁が編纂した『昭和天皇実録』の内容が9日、公開された。昭和天皇の生涯を綴った初めての公式記録で、1989年の崩御から25年を経て61巻・1万2000ページにまとめられた。第2次世界大戦を挟んだ激動期の「最前列の目撃者」の記録とあって、多くの海外メディアも内容の一部を報じている。特に、天皇が「自滅的な無謀な戦争」だと太平洋戦争の開戦に反対したという記述が注目を集めているようだ。

【開戦に反対するも戦争は回避できず】
 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、真珠湾攻撃前の御前会議で、天皇はアメリカとの戦争は「自滅的だ」と、軍の開戦論に批判的な心情を抱いたという部分に注目する。AFPも、同時期の記述に基づいて昭和天皇が開戦前に「無謀な戦争」だと軍部に警告し、「皇室の祖先に大変申し訳無い」という心情を吐露したとしている。

 APは終戦直前のエピソードを取り上げている。天皇が広島への原爆投下を知らされたのは約12時間後で、2日後の8日の晩に「戦争継続は不可能になった」と判断し、「可能な限り早急に戦争を終結するよう望んだ」という。また、戦後、靖国神社がA級戦犯を合祀することを知った際に、不快感を示したとするエピソードも取り上げている。

 一方でNYTは、昭和天皇は「自身の名の下に行われた戦争を止めるための行動はほとんど起こさなかった」とも記す。AFPはいわゆる「南京大虐殺」に触れつつ、実録に基づいたエピソードを取り上げている。それによれば、昭和天皇は軍部から南京陥落の報告を受けた後、「現場の兵たちに、諸君の勇気に非常に満足していると伝えよ」と命じ、作戦の成功を祝福したという。

【新事実はほとんどなし】
 これらの海外メディアは、実際に『昭和天皇実録』に目を通したわけではなく、日本メディアの報道を元に記事を書いている。そのため、実録の資料としての総合的な評価も、「これまでの常識と歴史を覆すような新しい事実はほとんど含まれていない」(毎日新聞社説)といった記述に代表される日本メディアの論調に準じている。

 NYTは、新事実が出てこない理由を、「日本人が天皇の戦時中の行動や対応を完全に消化しきれていないため」だと記す。昭和天皇というテーマ自体が非常にデリケートな問題をはらむため、意図的に盛り込まれなかった事実も多いのではないかという見方だ。APは、「宮内庁は天皇をトラブルに巻き込みたくないだけだ。それが(編纂の)最優先事項だったのではないか」という日本研究専門家の見立てを紹介している。

【一般に全文を公開】
 APは『昭和天皇実録』の目新しい部分も紹介する。25年という編纂期間をNYTは長すぎたと批判したのに対し、APは明治天皇の記録は没後半世紀以上経過した1968年に完成し、大正天皇の記録も2002年にようやく開示されたことを挙げ、今回は「比較的早かった」と評価。また、朝日新聞の情報公開請求によって公開された大正天皇の記録は一部が伏せ字になっていたが、今回は全文が一般公開されたとも記す。これまでの文語体から口語体になったのも、目新しい点だとしている。
 
 歴代天皇の伝記は古代より編纂されている。これまでは皇室内部に向けたもので、一般国民に公開されることはほとんどなかった。『昭和天皇実録』は、11月30日まで、皇居内の臨時閲覧室で写本が一般公開されている。共同通信などによると、5年以内に一般向けの出版も予定されているという。

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Text by NewSphere 編集部