集団的自衛権、中韓だけ批判論調 米国は賛意…中国の脅威が背景か
1日の臨時閣議で、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更が決定された。
従来の政府見解では、自衛権の発動は、「わが国に対する急迫不正の侵害の発生」の場合に限られてきた。今回の解釈変更により、日本と「密接な関係にある他国」への武力攻撃により、国民の生命、権利が「根底から覆される明白な危険がある場合」に自衛権を行使できるようになった。
安倍首相は記者会見で、新しい方針は、米国との同盟強化に言及し、「日米同盟は、日本とこの地域の平和に貢献する抑止力として働く」と述べた。米国主導の戦争に日本が巻き込まれる可能性を広げるものではない、とも説明した。
【中国・韓国は懸念】
中国国営新華社通信は、安倍首相が日本を再び軍国主義国家にしようと試み、「戦争の亡霊と戯れている」と非難した。中国外務省の洪磊報道官は、「日本が第二次世界大戦後、長年堅持してきた平和的発展の方向を変えようとしているとしか思えない」と懸念を示した。「日本がいわゆる中国からの脅威をでっち上げ、それを国内の政治目的のために利用していることに抗議する」と述べたという(フィナンシャル・タイムズ紙)。
また韓国は1日、日本が韓国政府の承認を得ずに朝鮮半島で集団的自衛権を行使することは認められない、と強調した(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。なお、閣議決定や記者会見で、朝鮮半島への言及はなかった(朝鮮日報)。
中央日報は、「安倍首相の望み通り、戦争ができる日本」と題する記事を配信するなど、大々的に報じている。集団的自衛権そのものへの批判より、安倍政権のとった手法を「独善」などと非難している(同紙コラム)。
なお、集団的自衛権行使の容認という日本政府の決定は、中国の習近平国家主席が韓国を訪問する直前に行われた。ニューヨーク・タイムズ紙は、これは同盟国米国から韓国を遠ざけようと試みているのだ、という大方の推測を取り上げている。
【米国は歓迎】
ヘーゲル米国防長官は、日本が米国の重要な同盟国として、東アジアの防衛で「より積極的な役割を担う」ことになるだろう、と方針転換を歓迎する発言をしている(フィナンシャル・タイムズ紙)。
東南アジア各国の報道には、まだ独自の論評は見られない。6月24日にはフィリピンのアキノ大統領が日本の取組みを支持していた。
【米国のプレゼンス低下で安全保障政策の見直し】
マサチューセッツ工科大学のリチャード・J・サミュエルズ教授は、日本の方針転換により、アジアでのあからさまな軍備競争がすぐに始まるわけではないだろう、とみている。ただ、日本だけでなく東南アジア諸国は、米国に以前のような力がないことを認識し、米国との新たな連携の道を探り、安全保障政策を見直している、というのだ(ニューヨーク・タイムズ紙)。
日本は、中国と領土問題を抱えるフィリピンとベトナムに対し、巡視船の提供を表明している。オーストラリアとは、潜水艦の共同開発を進めることに合意している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、このような日本と周辺諸国との関係はさらに強まるだろう、と予想している。
日本政治・東アジア研究者であるトバイアス・ハリス氏は、中国が主張するような、「日本の軍国主義回帰」はありえない、としている(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。それよりは、中国の軍備拡張に合わせて、この傾向が徐々に強まっていくのかどうかを注視する必要があるとしている。
【静かに、一気に進んだ方針の転換】
総じて海外紙は、日本の「平和主義」安全保障政策の一大転換点、という報道だ。安倍首相のとった手法には批判的な意見もある。
ワシントン大学のアンドリュー・オロス准教授は、「注意を払わなければいけないのは変わろうとしている内容ではない。変化のための前準備が声を潜めて行われ、周知が不十分だったことだ」と述べている(ニューヨーク・タイムズは紙)。
日本の世論が、未だに平和憲法の抑止力を弱めることに抵抗を覚えていることを忘れてはいけない、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は指摘している。主要国内紙が今月発表した調査結果では、集団的自衛権行使を容認するための憲法解釈変更に反対する人の方が多かった。国会での審議よりも先に閣内で方針を決めてしまったことで、方針の転換が注意深く実行されなかった場合の、国民からのより強い反発は免れないだろう、と同紙は推測している。
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