アメリカの「失望」まで覚悟していたか? 安倍政権のナショナリスト路線を米紙が懸念
安倍首相が26日に靖国神社を参拝し、中韓のみならずアメリカからも公式に批判を呼んだ。一方その翌日には、沖縄・米軍普天間基地移設のための辺野古埋め立てを、沖縄県知事が承認した。
アメリカは埋め立て許可を歓迎し、首相もそれを見込んで靖国参拝を前日にもってきたと言われているが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、靖国参拝のマイナスを相殺するほどではないようだ。同紙は参拝を「国際的にも国内的にも、利点が得られそうにない」と評している。
【意図的だが期待通りには行かなかった相殺策】
参拝についてアメリカ大使館は、「日本の指導部が日本の近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望」したと声明した。しかしすぐに沖縄合意が発表されると、ヘーゲル米国防長官は「このマイルストーンに達することは、同盟が複雑、困難な問題を処理することができるとの、地域への明確なデモンストレーションです」と歓迎した。
アメリカは埋め立てを望んでいたが、地元の反対のため、計画は17年間頓挫していた。沖縄への経済援助と米軍施設跡地の返還加速の約束が、支持獲得に役立ったと報じられている。
同紙によると、参拝を事前に知っていた「一握り」の首相側近の一人だという人物は、「行くとしたらこの日でなければなりませんでした。沖縄合意も控えていましたから」と証言しているという。側近らによると、首相は参拝の意向が強く、実施は時間の問題であり、26日の参拝は意図的にタイミングを見計らったものだったようだ。ただし政権には、ホワイトハウスが国務省に批判声明を出さないよう圧力をかける期待があったとも報じられており、そこまでのアテは外れたことになる。
【アメリカのメンツを潰したとの論調】
バイデン米副大統領の元側近ジュリアン・スミス氏によれば、アメリカはアジアの緊張緩和を主導する「正直な仲介者」としての立場を望んでいる(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。
しかし、不安定な北朝鮮を前に、また中国の防空圏宣言を受け「特別の緊急性でもって」、日本と、特に同じ同盟国である韓国との関係修復を目指したアメリカの努力は、「おそらく取り返しのつかないところまで」損なわれたと同紙は評する。従って、この調停失敗は、アメリカの威信低下につながるとの論調だ。
そしてアナリストらによると、アメリカは、参拝は自分たちにも不意打ちだったと、公式声明せざるを得なくなった。さもないと韓国や中国から、アメリカは参拝を事前に知っており、それを承認したのだと見られかねないからだ。
【経済第一路線は堅持、釈明する麻生財相】
安倍政権はこれまでのところ、円安株高誘導に成功して支持を集めてきた。逆に前回の首相任期中は、愛国教育など、国民の支持が薄いナショナリスト政策を重視し、政権短命化の一因となった。今回、経済問題に集中することが重要だと首相に進言していたという麻生財務相は、緊張拡大に伴う投資家の不安を解消すべく、「我々は、安倍内閣が経済を最優先に置くものであると申し上げてきました」とNHKで改めて表明するに至った。
共同通信の世論調査では70%が、首相は参拝決定を行う際に潜在的な国際的な影響を考慮に入れるべきだったと回答している。一方で沖縄基地合意のほうは賛成50%、反対34%であった。内閣の全体的な支持率は前週から1%ポイント上昇して55.2%で、ただちにダメージにはつながっていないという(ただし調査数や誤差の範囲が明らかでないと指摘されている)。
【竹富町の教科書闘争】
一方、ニューヨーク・タイムズ紙は、秘密法案の成立などと合わせたナショナリスト政策強化の例として、南京大虐殺・従軍慰安婦などを含む、歴史教科書問題の最近の加速を取り上げている。沖縄戦の記憶で特に反戦教育意識が強い「要塞」、沖縄の竹富町は2年前、石垣市の新教育長が指定した中学教科書を拒否していた。これに対し10月、下村文相は指定教科書の使用を命じ、11月には文部科学省が新しい検定基準を提案した。
決して屈しないと語る地元の教育者らは、政権が「国家レベルで障害が発生した変革を地域レベルで強制する」「政治的象徴的な勝利を獲得する」意図で、中学3年生が32人しかいない竹富島をターゲットにしていると考えているという。