韓国まで敵に回した中国 海外紙が指摘する「防空識別圏」の致命的ミスとは
中国が唐突に主張し始めた防空識別圏について、海外各紙が様々な矛盾を指摘している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(以下、ウォール紙)は、単に計画が杜撰であったか、事前に各国専門家の意見を聞けなかったせいではないかと示唆している。その後の中国側の諸発言も苦しげで、見方によっては姿勢が軟化してきたかのようでもある。
【中国防空圏の問題点】
ニューヨーク・タイムズ紙は、日本などの防空圏と重複しているため、航空機がどこの管制と意思疎通すれば良いのか混乱を招くと指摘する。同紙は、国連の国際民間航空機関に事前通告しなかった点も挙げている。
また、中国領内を目指した飛行でなくとも、通過するだけで規制対象とする点は異例だという。さらにウォール紙は、一方的な宣言が問題なのではなく、尖閣諸島のような係争地を堂々と圏内に含めてしまった点こそが問題だ、というアナリストや外交官の見解を報じている。
【撃墜するのかしないのか】
中国側は「全ての航空機」と言っているが、ウォール紙は、民間機が含まれるのか含まれないのか、中国側の説明が矛盾していることも指摘する。
従わない航空機に対する「緊急防衛措置」を警告している。これについて、空軍の大将が「撃墜できる」と発言している一方で、国防部の報道官は、防空識別圏は飛行禁止区域や中国領空の延長ではなく、中国が撃墜の可能性を示唆しているというのは「正しくない」、と述べており、食い違いがみられる。
報道官は、具体的な対策について、脅威の程度など状況次第で決まると述べている。さらに、「中国側は、東シナ海ADIZに入ったすべての国の航空機の迅速な同定を行ってきました。我々は、関連する航空機に関する状況をしっかり把握しています」などと述べている。これに対し同紙は、26日(現地時間27日)に米B52爆撃機が圏内に無断進入した例などを中国側が把握できていたこと自体にさえ、幾分懐疑的な論調のようである。
【総スカンの北京、何がやりたかったのか】
中国が、やはり日本と竹島問題などを抱える韓国までも、防空識別圏を重複させて「敵に回した」ことに、一部のアナリストは驚きを隠していないと同紙は伝える。韓国も26日、中国と係争する水中岩礁に戦闘機を送り、28日には区域変更を中国に要求して拒否されている。
中国政府は国際的に多方面から批判を浴びている一方で、国内でも、侵略してきた日米韓らの航空機をなぜ放置しているのかと、ナショナリストの批判に晒されているという。
中国がこうしたリスキーな防空圏宣言に出た理由について、ある専門家は、東南アジア諸国を含めた周辺各国に対し、徐々に中国の権威を既成事実化させていく狙いを挙げている。またフィナンシャル・タイムズ紙は、習近平首相は今年オバマ米大統領とのカリフォルニア会談で、「太平洋は2大国を住まわせるに足る大きさ」だと発言していたことを指摘。「おそらく、米国と中国で戦利品を山分けしようということだったのだろう」と皮肉った。
同紙は、中国政府が、尖閣諸島周辺空域の支配の問題を、東アジアに対する米国の安保姿勢のリトマス試験紙に変えてしまったと分析。中東で失点したオバマ米大統領は、東アジアでこれ以上退くわけにはいかず、チキンレースの行方は中国次第になってきたといえる。