参院選圧勝は、安倍首相にとって「両刃の剣」?海外紙の懸念とは

 目前に迫った日本の参院選では、事前に行われた各種の調査が、自民党の大勝を裏付けているという。連立を組む、自民党と公明党を合わせての過半数はもちろん、自民党の単独過半数獲得の勢いすら指摘されている。
 
 もちろんこれは、一面において、安倍氏の手腕に対する国民の期待といえる。アベノミクスは、確かに、日本経済を好転させたかに思える。安倍氏の首相就任以来の7ヶ月間で、「分不相応」な円高は21%下がり、株価は68%上昇した。住宅着工率は5月現在で、9ヶ月連続で右肩上がりだ。緩和策によって中央銀行から市場に金が流れ、資産価値を押し上げ、トヨタに代表される輸出業者の収益は上がった。

 安倍氏は、アベノミクスをより力強く推し進めるために、参院選での勝利が必要だ、と言う。では、「ねじれ国会」が解消され、小泉首相以来、もっともスムーズに法案を通せる与党党首となる安倍氏は、本当に、アベノミクスに必要な各種改革を断行する「武器」を手に入れるのだろうか。

 海外各紙はこぞって、安倍氏が手にする武器が、両刃の刃であることを指摘。-自民党の大勝が灯す「日本経済の危険信号」と、安倍氏の課題を指摘している。

【第一の課題—-実態の乏しい「アベノミクス」】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、第一の問題点として、一見、日本経済を牽引しているように見えるアベノミクスの「実態の乏しさ」を指摘し、エコノミストの、速ければ来年にも日本経済の成長が大きく落ち込むとの予想を報じている。
 根拠は、頑固に抑圧されたままの賃金、企業による投資の鈍化傾向、政府支出の行き詰まりなどの各要素。そして、安定的な経済復興を下支えするべき多くの要素が未だ動きださないことだという。
 確かに、世界的な大企業のなかには、アベノミクスの恩恵にあずかっている企業もあるが、ほとんどの小規模な、国内需要に強く依存する企業は、依然、資金繰りに苦しんでいるのが実情だ。
 国内の消費も、むしろ冷え込んでいると、ユニクロの母体であるファーストリテイリングの幹部は指摘している。日本の消費者は依然「安いものを探し続けており、財布のひもは非常に固い。アベノミクスの根本的な目標であるインフレの兆候もまだ見られない」という。
 その他の専門家も、収入が上がる期待感よりも、来春4月に消費財が現行の5%から8%に上がることへの警戒心のほうがはるかに強く、投資で「増やす」よりも節約で「減らさない」ことを重視する消費者心理を指摘している。

 一方、安倍氏やその支持者は、TPPの参加や、医薬品販売の規制緩和や投資減税などの施策によって、そうしたハードルを打破し、成長や支出を促進するとの考えだ。

【第二の課題—-打破できるか、既得権益の壁】
 しかし、そこに第二の問題があると、海外紙は指摘する。
 TPP、医薬品販売の規制緩和、消費税の増税。そうした「痛み」を伴う、経済の構造改革は、強力な既得権益者の嫌うものであり、自民党内を分断しかねない危険を伴うからだ。
 今は「選挙」という大義のもとで結束している党内も、当選すれば、それぞれの議員がそれぞれの支持者を「代弁」する立場となる。

 小泉内閣で、首相の金融・経済関連のブレーンとして「構造改革の促進」を担った竹中平蔵氏は、参院選の性質からして、自民党の大勝が、アベノミクスのブレーキとなる可能性に警鐘を鳴らしている。
 「選挙の勝利が、改革への支持を失わせる」。

 参議院選挙には、比例代表制度があり、今回争われる半数121議席のうち48議席は、「党のもの」として「セレブ」候補者や票を動かしたグループの代表者に与えられることが多い。それによって、「既得権益」を背負った自民党議員が増加するというわけだ。

 選挙中、安倍氏は慎重に言葉を選んでいた。都市部ではTPP参加の決断を自賛し、農村部ではなるべく触れないようにする。そうした「融和的な」姿勢に、強い覚悟をもって改革を断行することの困難を見る識者も存在するようだ。林立する既得権益を尊重し続ければ、結局、政府の支出は膨れ上がる一方になるだろう。

 CNBCは、日本国民が自民党を支持する心理について、識者のこんな談を紹介している。
「安倍氏が首相として返り咲くことができたのは、彼が、状況がいかに切羽詰っているかを正しく認識しているからだ。今の日本は、川で溺れかかっている人のようなものだ。安倍氏はこう言っている。『命綱を投げるから、手を伸ばせ』と。日本は手を伸ばした。今もリスクはある。しかし、何もしないリスクのほうが、はるかに、はるかに高い」

Text by NewSphere 編集部