参院選、間近 「強いリーダー」誕生を歓迎する海外紙
日本の参議院選挙がいよいよ迫ってきた。前評判通りの結果が出れば、支持率が60%の大台にのっている安倍政権が票を集め、自公合わせれば、衆参両院で三分の二以上の議席を確保することになる。そうなれば、安倍首相は、「ねじれ国会」に悩まされてきた最近の日本の首相の誰よりも、はるかに簡単に法律を作ることができるようになる。
海外各紙はこれまで、「右傾化」の観点から安倍首相の姿勢を懸念することが多かった。しかしフィナンシャル・タイムズ紙は、「強いリーダー」安倍首相をいただくことは、日本や諸国にとってプラスになると評価している。
【フィナンシャル・タイムズ紙が読み解く「強いリーダー」の価値】
過去7年間に7人、過去20年では14人と猫の目のように代わった首相たちは、諸外国のリーダーにとって「交渉相手」には足りない「風前の灯」的な存在だった。
しかし、今回与党が圧勝すれば、安倍首相は、次の選挙がある2016年までが安泰だ。さらに自民党内も、2年間、不慣れな「野党」の立ち場に身をおいた経験から、安倍首相についていく覚悟が固まっていると思われる。
そうした、国内外から重きを置かれる「強力な」リーダーを持つのは、日本にとっては、吉と出るだろう。
【安倍首相の主張にも一理ある】
ただ、「根っからの」ナショナリストである安倍首相をいただく日本の右傾化を危ぶむ声は根強いとも指摘。特に、中国、韓国の反発は強く、韓国とは「従軍慰安婦問題」にからみ、首脳会談が見送られるほどの外交問題に発展している。米などの同盟国も、これには眉をひそめている。
安倍首相は、「愛国心」は自然のものであり、自らの主張はあくまで、日本の「特殊性」を「正常化」するためのものだと主張している。同紙は、彼の論理には一理あるとしている。なにしろ、国歌斉唱や軍隊の保有、戦死者の祭祀が、国内外で波紋を広げる国など、ほかにはないからだ。
また同紙は、ほとんどの日本人よりも「保守的」だと思われる自民党内でも、憲法改正は議論が分かれるところであると見ている。平均的な日本人は平和憲法を大切にしており、改正を目論む安倍首相の思い通りに事が運ぶとは思えない、と分析している。
【アベノミクスも応援?】
経済に関しては、「ノーリスク」はありえない。そしてもちろん、経済学的に行って、安倍氏のやることなすことが「正解」であるはずもない。
しかしそれでも、15年以上、デフレの泥沼に頭まで漬かって、窒息しかけていた日本をそこから引きずり出すことができるのであれば、それは、「正解」と言わざるを得ないはずだ。
【日本人記者が指摘する、日本国内の風向きの変化】
一方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、日本国内の「右傾化」が、現実に進行しているともとれる風潮を伝えている。
自衛隊出身の参議院候補の佐藤正久氏は、選挙演説で日の丸を背負い、戦時中特攻隊員として命を散らした人物がわが子に宛てた手紙を読み上げた。「守るべきものがある。守るべき国がある」。そうした、元「自衛隊員」であることを前面に押し出した選挙手法は、これまでは考えられなかったものだと記者は指摘している。
【防衛相のインタビュー】
小野寺五典防衛相が16日に、同紙とのインタビューで語ったところによれば、政府は防衛計画大綱の見直しを進めているという。具体的には、敵基地に対する攻撃能力や島しょ防衛部隊を持たせるなど自衛隊の役割を強化し、東アジアの安全保障環境の変化に対応できるようにしたいとの意向だ。
同相は、「安全保障環境は常に変化しているが、ここ数年の変化はかなり急速なものだ」との認識を示し「それに備えた装備で必要なもの、対応するための目標はその都度変わる。そのため防衛大綱を見直すことにした」と、大綱見直しの理由を説明しているという。
こうした政府主導の「軍備強化」を支持する風潮が、たしかに醸成されていると、同紙は伝えている。
東日本大震災で、「国民を救う、頼りになる存在」としてクローズアップされた存在感も手伝って、自衛隊の人気が上がっていることは、草の根レベルで実感できる、と同記者は言う。
たとえば、人気作家による、自衛隊の広報室を舞台とした作品をドラマ化した「空飛ぶ広報室」は高視聴率を記録した。自衛隊員とのお見合いパーティには多くの女性が集まるという。近年、人気がなく、新人確保に苦労していた自衛隊員だが、最近では、優秀な若者が「国を守りたい」「国民を守りたい」という理想に燃えて入隊してくるようになったとも伝えられている。
小野寺防衛相は、自衛隊の強化は「必要だから」であり、歴史問題については、日本は過去の戦争行為を痛切に反省するという姿勢に変わりはないと主張している。
経済、国防、憲法・・・参院選は、こうした部分についての国民の選択が問われる選挙になるといえる。