米国を騒がせた韓国車盗難、なぜ2042年まで続くのか 被害地域も変化 米研究

ヒョンデ・ソナタ(米カリフォルニア州)|Thomas Trompeter / Shutterstock.com

 アメリカで2020年代前半、韓国の自動車メーカー、起亜とヒョンデの一部車種を狙った盗難が急増した。SNSには盗難車を乗り回す若者の動画が相次ぎ、「Kia Boys(キア・ボーイズ)」と呼ばれる騒動に発展した。

 だが、この問題は一時的なSNSブームでは終わらないかもしれない。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)などの研究チームは、ロサンゼルスでは対象車の盗難増加が少なくとも2042年まで続き、影響は2050年ごろまで残る可能性があると予測している。研究結果は学術誌『International Journal of Forecasting』に発表された

◆「盗みやすい車」が大量に市場へ
 問題の背景にあるのが、登録された鍵でなければエンジンを始動できない盗難防止装置「エンジンイモビライザー」だ。

 研究チームによると、起亜とヒョンデが2011~2022年に販売した計20車種の一部には、この装置が搭載されていなかった。そのため比較的簡単な方法で盗むことができ、盗難の手口を紹介する動画がTikTok(ティックトック)やYouTube(ユーチューブ)で拡散。「キア・ボーイズ」「キア・チャレンジ」などと呼ばれ、全米で問題となった。

 米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は2023年、イモビライザーを搭載していないヒョンデ約380万台、起亜約450万台を対象に、両社が無料の盗難防止ソフトウェアを提供すると発表した

◆盗難急増はSNSより前に始まっていた
 ただし研究チームの分析では、SNSが盗難急増の発端だったという単純な構図ではなかった。

 ロサンゼルスでは、ヒョンデ・ソナタの盗難は「キア・ボーイズ」が全米で注目を集める以前から急増。2022年には市内で最も多く盗まれた車種になった。

 論文は、ロサンゼルスでの盗難増加と「キア・ボーイズ」のSNS流行との関連は弱く、盗難の増加は新型コロナウイルス禍のロックダウン中にすでに始まっていたとしている。

 研究チームは、SNSがその後の盗難を増幅させた可能性はあるものの、車の弱点そのものは別の経路でも知られ、車が長時間路上に置かれたことなど、複数の要因が重なったとみている。

◆なぜ2042年まで続くのか
 研究チームが注目したのが、盗難されやすい車が中古車市場に長く残る点だ。

 かつて盗難の標的になりやすかったホンダ・シビックとトヨタ・カムリのデータを分析したところ、新型車への盗難防止装置の導入後も、対策の弱い旧型車は長年にわたって盗難の対象になり続けていた。

 この傾向をヒョンデ・ソナタなどに当てはめたモデルでは、ロサンゼルスで対象車の盗難が少なくとも2042年まで続き、影響がほぼなくなるのは2050年ごろになる可能性が示された。

 さらに、盗難が集中する地域も変化すると予測している。新車は時間の経過とともに中古車として売買され、価格も下がる。盗難されやすい旧型車も同じように移動し、やがて低所得地域に集中していく可能性があるという。

 つまり、犯罪者が移動するだけでなく、「盗まれやすい車」そのものが中古車市場を通じて移動することで、盗難の多発地域も変わっていくというわけだ。

◆10億ドル超の訴訟も継続
 起亜とヒョンデをめぐる問題は現在も法廷で続いている。

 ロサンゼルス・タイムズ紙によると、米連邦第9巡回区控訴裁判所は9月14日、盗難や盗難未遂によって保険金を支払った保険会社が両社を相手取った訴訟について、連邦地裁で審理を再開するよう判断した。

 約200の保険会社は、関連する盗難で10億ドル(約1580億円)を超える保険金や費用を支払ったとして補償を求めている。今回の判断はメーカー側の責任を認定したものではなく、訴訟を進めることを認めた段階だ。

 SNS上の流行は過ぎ去っても、その標的となった車は中古車市場に残り続ける。今回の研究は、一度市場に大量に出回った製品のセキュリティ上の弱点が、数十年単位で影響を残す可能性を示している。

Text by 白石千尋