ペットの死は「人と同じほどつらい」 研究が示すペットロスの深刻さ
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今年初め、猫好きの知人がペットロス症候群になった。ペットロス症候群は、ペットとの別離や死別によって引き起こされる精神疾患(心身の不調)だ。知人は長年飼っていた猫2匹が立て続けに死に、重いうつ状態に陥ったという。幸い、いまは前向きな気持ちを取り戻し、初夏には新しい猫を迎える計画を立てている。
ペットに興味のない人にとって、それは単なる動物の死にすぎず、ペットの飼い主が感じる深い喪失感は社会ではあまり理解されていない。しかし、最新の研究によると、この悲しみは、愛する家族や友人を失った時の心の痛みに匹敵するほど強い可能性が示唆された。
◆親友や祖父母の死と同様にPGDの原因に
学術誌「PLOS One」に掲載された調査によると、ペットを亡くした人も、愛する人を失った結果として表れる悲嘆障害の「遷延性悲嘆症(PGD)」を発症する可能性があることがわかった。PGDは半年以上続き、日常生活に著しい支障をきたす精神疾患だ。現在のガイドラインではPGDの診断の対象は人の死を経験した場合のみで、ペットの死後の不調は対象外だ。
この研究は、イギリス在住の成人975人を対象にした。全体の84.2%が人やペットの喪失を経験しており、内訳は親の死が最も多く(48.1%)、次いで祖父母の死(45.6%)、ペットの死(32.6%)、親友の死(26.5%)、きょうだいの死(14.2%)、パートナーの死(8.5%)、最も少なかったのは子供の死(6.8%)だった。
1つ目の興味深い知見は、ペットと人の両方の死を経験した人の中には、ペットの死を最もつらい喪失と感じた人が一定数いたこと。人とペットの両方の死を経験した人に「どの死が最もつらかったか」を尋ねたところ、42%が親の死、21%がペットの死を選び、3位は祖父母の死16.3%だった(以下、上記の他の人の死が続く)。
もう1つの発見は、PGDの診断基準を満たした人の割合がペットを亡くしたか人間を亡くしたかに関わらず、似ていた点だ。ペットを失った人のうち7.5%がPGDと判定できた。この数字は、PGDの原因が親友の死だった人の割合7.8%とほぼ同じで、原因が祖父母の死だった人8.3%、きょうだいの死だった人8.9%、パートナーの死だった人9.1%に近かった。はっきりと差があった(統計的に有意に高い割合だった)のは、PGDが子供の死によって引き起こされたケース21.3%と親の死の11.2%のみだった。
本研究の著者であるアイルランドのメイヌース大学心理学科のフィリップ・ハイランド教授は、「PGDの対象となる喪失基準からペットの喪失を除外する決定は科学的に誤っているだけでなく、冷酷ともいえる」と結論付けている。
◆ペットロスの電話相談や専門カウンセラー
世界には膨大な数のペットがいる。ヨーロッパ41か国だけでも、約3億匹のペットが飼育されており、約1億3900万世帯が少なくとも1匹のペットと暮らしている。
こうした規模を踏まえれば、ペットとの死別を経験する人は世界中に広く存在し、その中には深刻な悲しみや心身の不調に苦しむ人も少なくないと考えられる。
イギリスの動物福祉慈善団体ブルー・クロスは、動物福祉全般に取り組むとともに、ペットロス症候群に苦しむ飼い主への支援も行っている。同団体のペットロス・サポート・サービスは2024年に30周年を迎え、利用者は年々増加している(スカイニュース)。
「年次報告書・決算報告書2024年」によると、電話やメール、ウェブチャット、フェイスブックを通じた支援依頼は同年3万689件に達し、すでに2026年の目標を上回った。
需要の拡大を受け、同団体は資金調達を進め、ボランティアを310人に増員(前年比60人以上増)。特に男性からの相談が少ない傾向を踏まえ、男性ボランティアを増やすことで、相談しやすい体制づくりも進めている。
またイギリスでは、ペットロスに対応する専門カウンセラーの育成も進んでいる。養成機関は複数存在し、継続職能開発(CPD)に基づく専門職向けの研修やコースが提供されている。こうした研修は、英国カウンセリング協会(BACP)などの専門団体が定める基準や倫理に基づいた実務能力の習得にもつながっている。
◆「支援が得られない」と感じる人もまだ多い
一見すると、イギリスではペットを失った人の精神的なサポートは充実しているように思えるが、十分というレベルにはまだ達していない。イングランドとウェールズを拠点とする、世界最古の動物福祉慈善団体の王立動物虐待防止協会(RSPCA)は、2025年に、ペットの死別に関する全国調査(2800人以上が参加)を実施した。その結果、ほぼ6割(57%)が「悲しみを隠さざるを得ないと感じた」といい、「他者に自分の悲しみを本当にわかってもらえたと思った」のは、わずか1割(13%)に過ぎないことが明らかになった。
そして、ペットを亡くした人の半数以上(57%)が「必要な支援が得られなかった」と回答した。4分の1以上(28%)は「誰に相談すればいいのかわからなかった」といい、同様の割合の人が「仕事や日課に追われ、悲しみに向き合う時間が取れなかった」と述べた。
◆ドイツでは、古い教会でペット葬儀が可能
多くのペットの飼い主は、周りの人々から「ただのペットの死だ」と言われるため、静かに悲しみを抱えている。そんななか、ペットの死を人間の死と同様に尊重しようと、ドイツのある教会がペットの葬儀サービスを始めた。
2023年12月にペット葬儀の扉を開いたのは、南ドイツの聖パウルス教会だ。ただし教会とはいっても、実は70年の歴史を持つ教会だった建物で、特定の宗派には属していない私有地だ。あるペット葬儀業者(2020年設立)が、この教会が売りに出されていることを知って引き継いだ。聖パウルス教会でペット葬儀を行うと、遺灰は施設内で供養・埋葬されるという。こうした儀式は、飼い主が悲しみを受け入れることにきっと役立つだろう。
教会、または元教会の建物でペットの埋葬が行われているのは、ドイツでは前例がなく、世界的にも珍しい取り組みとされる。聖パウルス教会のペット葬儀サービスは、オンラインマガジン出版社のAI Globals傘下のEUビジネスニュースが企画する「ドイツ・ビジネス・アワード2024年」に選出された。
多くの社会において、ペットの重要性はますます高まっている。心身の不調に苦しむ飼い主への各種支援の充実は不可欠といえるだろう。




