閉ざされるロシアのSNS空間 テレグラム制限と官製アプリ「マックス」の拡大

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 ウクライナ侵攻の開始から4年目を迎えた今、ロシアのSNS環境は閉ざされていく一方だ。開戦以来、ロシアではフェイスブック、X、インスタグラムといった主要なサービスが次々とブロックされ、昨年からはロシアで主流だった外国製のメッセンジャーアプリの「ワッツアップ」や「テレグラム」の利用もかなり制限されるようになっている。

 シベリアの農村部などでは、これは実際の生活に大きな影響をもたらす。大都市から離れた農村には、携帯電話の電波が届かず、自宅のWi-Fiが届く範囲でワッツアップの通話機能を利用する以外、リアルタイムでの通話手段がないという地域も少なくない。

◆テレグラムが担ってきた情報基盤
 ロシアではここ数年、テレグラムも極めて重要な役割を担ってきた。テレグラムではBBCやドイチェ・ヴェレのロシア語版だけでなく、ノーバヤ・ガゼータやメドゥーザなど、ロシアの現政権とは距離を置くロシア系メディアや、舌鋒鋭く社会批判を行うユーチューバーなどもチャンネルを開設し、情報発信をしてきた。テレビのニュース番組や時事討論番組がほぼ国営メディアだけで占められている今のロシアでは、テレグラムは多様なメディアの情報を定期的に受け取れる唯一の手段となっていた。

 戦時下のロシアに住む人に最も強い閉塞感をもたらすのは、信頼できる情報の不足と見つけづらさだ。だがこれまではテレグラムが、複数の異なる情報を比較して分析、判断するのを容易にしていた。

 そんな中でテレグラムやワッツアップの利用制限が始まったのだから、ロシアのユーザーたちの不満の声は当然大きく、モスクワではインスタグラムのブロックに反対するデモも計画されている。

◆前線にも及ぶ通信制限の影響
 興味深いのは、テレグラムのブロックに、市民だけでなくロシアの軍関係者らも強く反対していることだ。ウクライナ戦線におけるロシア軍の指揮系統、とくに無線が使えない状況において、テレグラムはすでに不可欠の通信手段となっており、その速度制限が原因で作戦が失敗する例も出ている。戦況が不利になったり、戦死者が出たりするケースもあるという。

 ちなみに、兵士たちにとってもテレグラムは故郷の家族と連絡をとるための重要な手段であり、とりわけ先述のような、携帯電話の電波が届かない地域出身の兵士にとっては、ほぼ唯一の通信手段だ。

 速度制限が強まる中、規制の壁を乗り越えられるVPNへの依存が高まっている。だが、ロシアの通信制限の壁は厚く、利用できるVPNの種類は少ない。たとえあっても、VPNのサービスはその性質上、極めて不安定で、さっきまで使えていたVPNサービスが急に使えなくなり、新しいバージョンを必死で探すことも日常茶飯事だ。

◆官製アプリ「マックス」の拡大
 テレグラムやワッツアップの代わりとしてロシア政府が強引に普及を進めているのが、VK社のアプリ「マックス」だ。ロシア版の「微信(ウィーチャット)」となるべく、まずは教育機関などで利用を強制し始めているが、利用者たちはこぞってその使いづらさをこぼす。

 まずマックスのアカウントは目下、ロシアとベラルーシの電話番号でしか作成できない。つまり海外に住む友人や知人とのマックスでの交流はほぼ不可能だ。

 安全上の懸念も大きい。マックスは利用者のアドレス帳や訪問したウェブページ、位置情報などを収集し、要請があれば政府機関に転送するとしている。しかも行政サービスを扱うポータルサイト「ゴスウスルギ(gosuslugi)」とマックスの統合が検討されているため、個人情報の収集は日常化する可能性が高い。

 そのため「既存の便利なアプリがあるのに、なぜ今さらマックスに変えなければならないのか」というのが多くのユーザーたちの本音だ。

 だが官製アプリ、マックスの攻勢は止まらず、昨年9月にはロシアで販売されるすべての携帯電話とタブレットにマックスのプリインストールが義務づけられた。

 中国における微信のように、ロシア国民のすべてがマックスの利用を強制され、マックスに行動を監視される日はそう遠くないかもしれない。マックスがすべての潜在的な反体制派を選別し、処罰する「デジタルゲットー」になると予言するユーザーもいる。

 それを冗談と笑えないほど、今のロシアのSNS空間は狭く、息苦しいものとなりつつある。

Text by 古藤史文