禁酒70年超のサウジに「静かな変革」 酒類販売の例外拡大

リヤドの音楽フェスでノンアルビール等の飲食スタンドに集まる観客(2025年12月)|Baraa Anwer / AP Photo

 サウジアラビアでは近年さまざまな社会的自由化が進んでおり、これまで禁止だった酒類販売も解禁の動きが見られるという。観光業拡大や国際的企業誘致のため、さらなる酒類の自由化が進む可能性があるが、保守的な国内世論を意識した静かな変革となりそうだ。

◆70年以上にわたる禁酒 密かに緩和進む
 サウジアラビアでは1950年代、建国のアブドルアジーズ国王の息子が酒に酔ってジッダのイギリス副領事を射殺した事件をきっかけに、1952年に禁酒が法律となった。同国はイスラム教の聖地守護を自任する国であり、国教であるイスラム教では飲酒が禁じられている。

 ところが2024年、首都リヤドに非イスラム教徒の外交官向けの酒類販売店がオープンした。これは禁酒が定められて以来、初めてのことだ。英エコノミスト誌によれば、現在リヤドの店舗では「プレミアム居住ビザ」を所持する、または月収が5万リヤル(約210万円)以上ある外国人であれば、酒類購入が可能になっている。

 この新たな酒類販売店に関する情報は公式に発表されておらず、口コミで広がっているという。エコノミスト誌によれば、場所はグーグルマップには掲載されていない。店内での撮影は禁止で、入店後に写真を撮らせないため、スマートフォンは密封袋に入れるよう指示があるという。

 長期滞在の駐在外国人によれば、品揃えはまずまずで、一般的なブランドの酒類は海外より高いが、サウジの闇市場よりは安価だという。闇市場では危険な自家製酒や法外な値段の密輸酒が流通しているため、安心感は高いとしている。(米ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)

 ロイターは情報筋の話として、さらに2つの酒類販売店が新規開店予定だと報じている。

◆近代化政策の一環 世論に配慮も
 酒類の自由化は、モハメッド・ビン・サルマン皇太子が2017年に皇太子に就任して以来実施してきた近代化政策に続くものだ。女性の運転禁止の解除、映画や音楽祭の許可、道徳警察の権限縮小など、これまでのイメージを刷新する改革がすでに行われている。WSJによれば、サウジはエネルギー市場の低迷と財政難に直面しており、財政赤字削減のため、石油依存から脱却し、外国人観光客や駐在員からの資金流入を模索しているという。

 もっとも、全国的な酒類禁止令の解除は、国内において依然として敏感な問題だ。保守的な国民はサウジを宗教国家として認識している。皇太子もその事実を強く意識しているため、酒類の自由化は段階的に、そして目立たない形で実施される可能性が高いとWSJは述べている。隣国アラブ首長国連邦では、ドバイでの酒類解禁が外国人富裕層を引き付けることに貢献しており、サウジもこれを模倣し、一部地域で自由化する可能性が高いとしている。

◆リゾート建設、イベント誘致続々 酒は必須アイテム
 サウジは近年、紅海沿岸でのリゾート計画にも積極的で、高級ホテルが続々と誕生しているが、酒類提供は禁止されたままだ。ロイターが外国人観光客誘致のため酒類規制緩和の計画があるかどうか質問したところ、アフメド・アルハティブ観光相は、現時点では何も変わっていないと返答した。しかしエコノミスト誌は、サウジはビールやワインなどの提供準備を進め、バーテンダーの募集を始めた施設もあると報じている。

 ロイターによれば、2034年サッカーワールドカップ開催を見据え、観光地で酒類販売を認める計画があるとの報道が一部で広がった。しかし当時、サウジ当局者はこれを否定しており、報道の情報源も示されていないという。WSJは、大型スポーツイベントは通常酒宴を伴うもので、その量はしばしば膨大なものになるとし、酒類の提供がイベント招致に重要だという考えを示している。保守主義と近代化のバランスを取る難しいかじ取りが迫られるが、長年のタブーが破られる日は近づいているようだ。

Text by 山川 真智子