アルコール大国フランスで「ノーロー」台頭 ワイン見本市や高級レストランにも波

©Kanmuri Yuki

 家族が全員集合するクリスマスの食事、友人同士のにぎやかな年越しパーティ、趣味の集まりや同僚たちとの打ち上げ。12月のフランスでは、アルコールを飲む機会が多い。世界保健機関(WHO)の国別統計によれば、15歳以上の一年のアルコール(純アルコール換算ベース)消費量は、1人あたりフランスで11.2リットル。日本の6.3リットル、世界平均の5リットルよりかなり高い数値だ。

 だが意外にも、そんなアルコール大国フランスでノンアルコール飲料が、今静かなブームを呼んでいる。

◆かつては小学校の給食にもワイン
 ワインは、言うなれば日本のお茶と同じ感覚で、長い間フランスでは食事に欠かすことのできない飲み物だった。リベラシオン紙によると、1956年に禁止されるまでは、小中学校の給食でもワインが供されていたのだ。高等学校でのアルコール提供にいたっては、さらに四半世紀を経た1981年まで禁止されることがなかった。今年85歳の筆者の知り合いも、確かに給食にはワインが出ていたと頷く。

 そんなフランスであるから、少なくとも1990年代には、仕事中であっても昼食時のワイン1~2杯は許容範囲だったと記憶しているが、いつの間にか平日昼間のワインはほぼ見かけなくなった。

◆世代による好みの差
 実際、フランスのアルコール消費量は今世紀に入ってから減少傾向が続いている。ワインでいえば、1960年には128リットルだった1人あたりの年間消費量が、現在は40リットルに満たない(ワインとスピリッツの学校EVSサイト)。

 その原因として、まず若者世代のアルコール離れが挙げられる。2023年10月から2024年9月にかけてスタティスタが行った世代別アルコール消費に関する調査によれば、ベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)、X世代(1965~1979年生まれ)、ミレニアル世代(1980~1994年生まれ)、Z世代(1995~2012年生まれ)のうち、もっともアルコール消費が多いのは、最年長のベビーブーマー世代だ。最年少のZ世代は最もアルコール消費量が少ない。(Cnews

◆ドライ・ジャニュアリー(Dry January)の浸透
 若い世代のアルコール離れに加え、ドライ・ジャニュアリーの浸透も、アルコール消費減少に影響している。ドライ・ジャニュアリーとは、年末のパーティ続きの翌月である1月はアルコールを控えようという呼びかけだ。2013年にイギリスで始まったこの運動がフランスに入ってきたのは2020年だった。最初の数年はメディアでしか耳にすることがなかったが、昨年あたりから同調する人が増えた印象だ。CGA/Nielsenの調査によれば、2024年の時点で調査対象となったフランス人の52%が、一般に飲酒量を控える予定だと答えている(EVS)。

◆ノーロードリンクとは? どんな人が飲む?
 そんな中、ここ数年でシェアを静かに広げつつあるのがノーロードリンクだ。ノーローは、ノー(無)アルコール&ロー(低)アルコールを意味する英語から入った呼び名で、アルコールを抜いたビール、ワイン、さらに、ジン、ラム酒などスピリッツの飲料を指すことが多い。ちなみにノンアルコール飲料の定義は国によって微妙に異なる。日本ではアルコール度数1%未満と決まっているが、フランスの場合は、ビールはアルコール度数1.2%未満、ワインは0.5%未満がノンアルコールとみなされる。

 SoWineとDynataが2023年に発表した調査結果によれば、フランス人の29%がノーロードリンクの消費者で、18~25歳では45%に上る。

 とはいえ、市場の声を聞くと、若い世代以外にもノーローを飲む人が増えている印象だ。12月6日にマルセイユにノーロードリンク専門店をオープンしたブルーソー氏は、フランス・アンフォに客層はさまざまだと語る。「30~45歳の、若い頃は飲んでいたが、さまざまな理由でアルコール摂取を減らしたい人、18~25歳のアルコールは全く飲まないけれど好奇心旺盛な人、パートナーは飲むけれど自分はあまりアルコールが好きではないという50~65歳の女性」

◆パリのワイン見本市や高級レストランへも
 ところで、パリでは毎年2月に国際ワイン見本市が開かれている。2025年には5万2千人を超える入場者を記録した規模の見本市だ。ミシュランと並ぶグルメ情報ガイドと知られるゴー・ミヨーは、このワイン見本市においてさえ、ノーロードリンクの出展者が2024年に50%も増加したことに注目している。

 ゴー・ミヨーによれば、「ノーローのコンセプトは、高級レストランにも浸透しつつある」。その例として、2004年にフランス最優秀ソムリエに選ばれたラポルト氏が、ノンアルコール飲料ブランド「プティ・ベレ」を立ち上げたこと、メゾン・ピックやデュカス・グループの高級レストランのメニューにノンアルコール発泡酒が名を載せたことなどを挙げる。

◆スピリッツ系ノーローの充実度
 では、アルコール専門店でもノーロードリンクは手に入るのだろうか? 筆者の住むフランス北部のワインとアルコールの専門店に問い合わせてみたところ、ちょうど前日にノンアルコールワインを注文したところなので年明けには陳列できると思うという言葉が返ってきた。だが、スピリッツ系のノーロードリンクは複数揃っており、いくつか試飲させてもらった。アルコール分不在のため、味の深みには物足りなさがあるが、香草やスパイスを加えたバージョンは、これまでにない感覚の飲み物だと感じた。店のアドバイザーのお勧めは、ガス入り水で割ったり、モクテル(ノンアルコール・カクテル)に使うことだという。

©Kanmuri Yuki

 一般的なスーパーマーケットのアルコール売り場を見ても、スピリッツ系のノーロードリンクの充実が目立つ。確かにこれだけあれば、モクテルの幅もぐんと広がることだろう。

©Kanmuri Yuki

◆新しいドリンク創作が広げる選択肢の幅
 元ソムリエのドノフリオ氏は、健康上の理由でアルコールを飲めなくなった2022年から、「ソブルリエ」を自称している。ソブルリエの仕事は、料理に合う飲み物を、煎出、浸漬、発酵といった手法で作られたノンアルコールドリンクから選んだり、自ら創作することだ。言い換えると、ソブルリエの仕事は「液体の料理」。シェフと協力し、例えば果物や米などの材料を用いて、独自の飲み物を生み出す。(リベラシオン紙

 フランスのクリスマス料理の定番は、鶏や七面鳥、ほろほろ鳥など家禽類の丸焼きだ。前述のノーロードリンク専門店のブルーソー氏は、家禽料理に合うドリンクの一例として、ベリー系のブラックティーと胡椒の飲み物を勧める。想像すると、一度は試してみたくなる組み合わせだ。

 ノーローの広がりはアルコールドリンクを駆逐するわけではなく、より幅広い選択肢の提示を可能とするというのが、同氏の考えだ。

Text by 冠ゆき