宝くじ当選、一括1.1億円か一生週11万円か 20歳カナダ女性の選択に議論

ブレンダ・オーバン・ベガさん|画像:ロト・ケベック(2025年7月3日付プレスリリース)

 カナダで宝くじに当選した20歳の女性が、当選金を一括で受け取るか、生涯にわたり毎週受け取るかという選択を迫られ、後者を選んだ。判断が報じられると、SNSでは「合理的だ」「損をしている」と賛否が噴出し、批判も交えた議論になっている。

 女性はケベック州在住のブレンダ・オーバン・ベガさん。今年7月、州の宝くじで最高賞に当選し、100万カナダドル(約1.1億円)を一括で受け取るか、生涯にわたり週1000カナダドル(約11万円)を受け取るかの二択を提示された。オーバン・ベガさんは迷った末、週払いを選んだ。報道によれば、将来の住宅購入を見据え、安定した収入を確保したい考えがあったという。

 週1000カナダドルは年換算で約5万2000カナダドルになる。単純計算では約19年で一括金額に並び、その後も受け取りは続く。一方、一括で受け取れば、資金を自由に使ったり運用したりできる。

 この「どちらを選ぶべきだったのか」をめぐり、ネット上では意見が真っ二つに割れている。

◆一括支持派「若いなら増やせた」
 一括支持派の主張は「若さ=時間」を最大の武器にできる、という一点に集約される。100万カナダドルを早期に手にすれば、投資に回すだけでなく、住宅の頭金にして借入額を減らす、学費や資格取得に投じて将来の稼ぐ力を伸ばす、事業や転職のための資金にするなど、選択肢が一気に広がる。週払いは安定的な反面、まとまった意思決定をしたい局面で「まとまった原資」が用意できない。

 運用面でも、一括派は「複利」を根拠にする。仮に年5%前後で運用できれば、元本は時間とともに膨らむ。もちろん市場は上下するが、20歳なら運用期間を長く取れるため、短期の値動きをならして成長に賭けやすいという見方だ。海外掲示板などでは「100万を投資した方が良かっただろう」といった書き込みがあり、週払いは機会損失だという捉え方が目立つ。

 さらに一括派が強調するのがインフレだ。週1000カナダドルは額面が固定で、物価が上がれば実質的な購買力は落ちる。20年後の「1000ドル」が今と同じ価値を持つとは限らない。一括で受け取って運用や資産に転換しておけば、インフレに合わせて価値が変動する商品や資産を選べるという考え方になる。

◆分割支持派「現実的で堅実」
 分割支持派が重視するのは、期待リターンよりも「失敗しにくさ」だ。若年で大金を一気に手にすると、生活が急に変わり、浪費だけでなく、人間関係の摩擦や金銭トラブルに巻き込まれるリスクが跳ね上がる。周囲からの援助要請が増えたり、断りづらさから支出が膨らんだりする。週払いは使える金額の上限が自然に決まり、生活設計を崩しにくい。

 数字の整理でも、分割派には言い分がある。週1000カナダドルは年換算で約5万2000カナダドルで、元本100万カナダドルに対して年5.2%相当になる。金融市場で年5%超を長期で安定して得るのは簡単ではなく、手取り感覚では「かなり良い条件の固定収入」と見える。海外掲示板などでも「例外を除けば、20歳が100万を適切に運用するのは難しい」といった趣旨の投稿があり、運用の難しさを前提にする立場がある。

 また、収入としての見え方も大きい。毎週一定額が入るなら、家賃や学費、生活費のベースを固めやすい。住宅購入を狙う場合でも、一定のキャッシュフローがあれば返済計画を立てやすく、精神的な安心感につながる。成功の条件が「投資で勝つこと」ではなく「大きく外さないこと」になる点が、分割派の支持を集める理由だ。

◆正解は人によって違う
 結局のところ、この選択に万人向けの正解はない。一括は自由度と成長余地があるが、自己管理が前提になる。週払いは増えにくいが、失敗しにくい。

 今回のケースが注目を集めたのは、当選額の大きさ以上に、「お金をどう受け取るか」という判断が、その後の人生を大きく左右することを可視化したからだろう。

 もし自分だったら、どちらを選ぶのか。ブレンダ・オーバン・ベガさんの選択は、宝くじの話題でありながら、多くの人に現実的な問いを突きつけている。

Text by 白石千尋