「コンドームは弱さの象徴」仏で使わない若者増加 男性優位主義が影響か
フランスの薬局前に設置されたコンドーム自販機(2018年12月)|Pierre-Olivier / Shutterstock.com
世界各地で性感染症の増加が問題となっている中、フランスでは、若年層のコンドーム離れが著しい。知識不足や性教育の不十分さに加え、そこには昨今SNSで広まっている男性優位主義思想の影響も見られる。
◆世界的な性感染症の増加
世界保健機関(WHO)によれば、性感染症の感染は世界各地で増加傾向にある。また、HIVとウイルス性肝炎、性感染症は毎年あわせて約250万人の死亡原因となっている。日本でも、2014年に約1700件だった梅毒の報告数が、2024年には1万4000人を超え、10年で9倍近くに急増している。
フランス公衆衛生局によれば、フランスでは特に若者層での性感染症の広がりが深刻だ。HIV感染に限っても、15~24歳の若者の新規感染診断数は、2014年から2023年の間に41%も増加している。それより上の年齢層においては同期間の新規感染診断数が15%減少していることと比べると対照的だ。
◆著しい若者のコンドーム離れ
日本ではコンドームは「避妊具」と呼ばれ、避妊目的が強調されがちだが、性感染症を防ぐうえでも最も基本的な対策である。フランスでは、2023年1月から25歳以下の若者は、コンドームを無料で入手できるようになっている。
ところが、最近行われた複数の調査で、若者のコンドーム離れが明らかになった。調査では、ステディな相手以外との性交渉において15~24歳の3分の1が、コンドームを使わないと返答している。
◆性感染症への恐れの欠如
複数の報道からは、若年層で性感染症への警戒感が薄れている様子がうかがえる。フランス3は、医師が「一部の若者にはHIVが存在しないかのように受け止められている」と指摘し、治療の進歩を背景に警戒心が薄れうると伝えている。
フランスのサルト県で家族計画カウンセラーをしているグーピル氏は、「我々40代まではHIVへの恐怖の中で育った。その恐怖がコンドームの使用を普及させるきっかけとなった。治療法が進歩した現在では、HIVは前ほど恐ろしいものではなくなり(中略)人々の警戒心は薄れ、コンドーム使用にも注意を払わなくなり、陽性率が再び上昇している」と指摘する(フランス・ブルー)。
◆正しい知識の不足
その反面、HIV感染の正しい知識などの情報は行き渡っていない。HIVは診断後できるだけ早く治療を始めるほど、ウイルス量を抑えやすく、健康への影響や感染拡大リスクを抑えるうえで有利だが、そうした理解が広がっているとは言いがたい。エイズ撲滅に取り組む研究者や医療従事者団体シダクシオンの調査によれば、フランスの15~24歳のうち40%がHIV感染を防ぐためのワクチンが存在すると思っており、39%がエイズは治る病気だと思っている。
だが、実際には現代においてもエイズは撲滅からは程遠い。国連合同エイズ計画(UNAIDS)によると、2024年のエイズ関連死亡者数は全世界で63万人を数え、新たなHIV感染者も130万人いた。ピークだった1996年の340万人と比べれば、61%減少しているが、UNAIDSの目標である37万人を大きく超える数だ。また、世界にいる4080万人のHIV感染者のうち、治療を受けられているのは約77%に過ぎない。
◆コンドームを使うのは男らしくない?!
正しい知識の不足の背景には、性教育の不十分さがある。学校・地域による性教育内容の不均等さを指摘する声も上がっている。それに加えて近年浮上しているのが、男性優位主義思想の影響だ。
12月1日の世界エイズデーに、シダクシオンが公開したオピニオンウェイが実施した調査によれば、フランスでは「男性優位主義的な言説が驚くほど増加」しており、特に「16~34歳の男性に大きな影響」を与えているという。
男性優位主義のインフルエンサーが、TikTok(ティックトック)などSNSを媒体に女性蔑視の発言を繰り返し支持を増やしていることはここ数年何度か指摘されてきた。フランス3は、その発言は男性による女性支配を助長していると述べる。
そうして、男性優位主義者の視点からは、コンドームは男らしさを損なうものだと考えられているのだ。オピニオンウェイの調査結果もこれを裏付ける。16~34歳の31%が「コンドームを使用しない方が強い男だと感じる」と答え、32%が「コンドームをつけない男の選択を、女は尊重すべきだ」と答えている。また若者の6人に1人は、コンドームは弱さの象徴だとまで考えている。




