「静かな離婚」親密さがゆっくり薄れていく――長年の問題に新しい呼び名

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著:Emily Impettトロント大学、Professor of Psychology)

 関係が終わる時は大騒ぎになることもあるが、ほとんどは静かに終わる。劇的な喧嘩や突然の暴露があるわけではない。そうではなく、パートナーは日々の小さな場面で、互いのために「現れる」(関わる)ことを徐々にやめていく。

 法的な離婚は、起こるとしても、ずっと前に起きていた別離の最後の段階にすぎない。長期的な関係からのこの緩慢で、ほとんど目に見えない撤退に付けられた呼び名である「クワイエット・ディボーシング(静かな離婚)」という言葉が、最近広まった。

 「クワイエット・クイッティング(静かな退職)」という言葉を借りたこの表現が一気に広がったのは、多くの人が認識しつつもめったに言語化しない経験に名前を与えたからだ。

 関係がゆっくりほつれていくとき、それは当のカップル自身にとってさえ混乱したり、あるいは見えなくなったりすることもある。しかし「静かな離婚」というラベルは新しくても、関係科学はこのじわじわ進む別れのプロセスを何十年も研究してきた

◆感情的な関わりを断つことの危険性
 関係のほつれ方はさまざまだ。アメリカの心理学者ジョン・ゴットマンの研究が示すように、早い段階から衝突がエスカレートするカップルもいる。だが多くの長期的なパートナーシップでは、問題の最初の兆候は微妙だ。感情的に引きこもる瞬間や、つながりを求める小さな「働きかけ」が返されないことがそれに当たる。

 関係への「働きかけ」は、日中の面白いメッセージだったり、散歩中に鳥を指差したりと、さまざまな形で現れる。パートナーが興味や温かさをもってそれに向き合い、応じるとき、親密さは強まる。逆に、それらの働きかけが無視されたり、軽くあしらわれたりすると、距離はゆっくり広がっていく。

 縦断研究――同じカップルを時間を追って追跡する研究――は、前向きな関わりの減少は関係悪化の強い予兆であることを示している。そして、何年も一緒にいた末に別れるカップルでは、それが目に見える衝突よりずっと前から起きていることが多い。

 こうした関係では、満足度はしばしば二段階のパターンを示す。長い静かな離脱の期間が続いたあと、関係の終点が近づくにつれて、より急激に落ち込む。問題を直接扱う頃には、関係を支える感情的な基盤がすでに空洞化しているかもしれない。

◆退屈は再接続を難しくする
 退屈――予測可能性、停滞、興奮の薄れという感覚――も、関係の緩やかな衰退を押し進める重要な要因だ。

 9年間の縦断研究では、退屈をより多く報告したカップルほど満足度が低いことが分かった。研究開始時点でどれほど満足していたかを研究者が考慮に入れた後でもこの影響は残り、この差は時間の経過に伴う感情的な親密さの低下によって説明される。

 別の研究では、カップルが退屈を感じる日は、ワクワクする共有活動に取り組む可能性が低いことが示されている。さらに、取り組んだとしても、その瞬間は以前ほど楽しくなく、つながりを感じさせるものでもない。時間がたつにつれ、共有の成長機会が減ることは、恋愛的な情熱が大きく落ちることを予測する。

 これは、多くのパートナーが関係を正式に終わらせるずっと前から「もう終わった」と感じる理由を説明する助けになる。

 関係がたった一瞬で崩壊することはめったにない。関係は、かつてそれを生き生きしたものに感じさせていた共有の瞬間が静かに失われることで、薄れていく。

◆なぜ今この言葉が響くのか
 研究者がこうしたパターンを何十年も前から知っていたのなら、なぜ「静かな離婚」は今、これほど人の心に響くのだろうか。

 このフレーズは現代の文化的圧力と共鳴している。アメリカの心理学教授エリ・フィンケルは著書『オール・オア・ナッシングの結婚』で、今日のカップルは、関係に安心や支えを求めるだけでなく、個人的な充足や興奮まで期待しがちだと論じている。

 情熱が薄れると――多くのカップルでは時間とともに自然にそうなるのに――その変化は普通のことではなく、何かが根本的に壊れている兆候だと解釈される。そこにSNSでの比較や、オンライン上の「見せるための愛情」が加われば、わずかな離脱でさえ特に際立って感じられる。

 静かな離脱は誰にでも起こり得るが、性別によるパターンも現れる。複数の研究で、女性は感情的な断絶を早く察知しやすく、関係の問題について会話を求め、最終的に離婚を切り出す可能性が高い。平均すると男性は、引いてしまうか、感情的な対立を避ける傾向が強い。

 文化的規範も役割を果たす。多くの社会では、女性が関係の感情的な維持管理を担うことを期待されている――何かが「おかしい」と感じたときに気づいて会話を始めたり、社交の予定を組んだり、カップルが感情的につながり続けられるようデートの夜を計画したりする、といった具合だ。

 その見えない感情労働が沈黙や抵抗で返されると、愛されているという実感が損なわれ、苦痛が増し、対立が助長される可能性があると研究は示唆している。こうした条件は、感情的な離脱を起こしやすくし、やがて関係の解消へとつながりやすくする。

◆緩やかな衰退を引き返せるとき
 「静かな離婚」は、多くの破局が単発の出来事ではなく、プロセスであることを浮き彫りにする。

 研究者は、カップルがしばしば最終的に別れる前に、数か月、場合によっては数年にわたる緩やかな衰退を経験することを観察してきた。悲劇なのは、多くのパートナーが、その距離が渡れないほど広く感じられるようになってから初めて、広がっていたことに気づく点だ。

 それでも、距離を生むのと同じ静かで漸進的な変化は、向きを変えれば、つながりを再構築し始めることもできる。

 日常の注意を求める働きかけに応え、感謝を伝え、慣れたルーティンにさえ小さな目新しさの火花を差し込めば、親密さは取り戻せる。感情的・性的な関与の低下は、関係が必ずしも絶望的だという意味ではない。関係に手をかける時が来たという合図である場合もある。

 ただし、すべての関係を救うべきではない。静かな衰退が、関係がもはや双方のニーズを満たしていない、あるいは慢性的に苦しい、または不均衡になってしまったという事実と正直に向き合った結果を反映していることもある。それに気づくことは失敗ではない。

 去るという選択は、自分のためだけでなく、関係の外にあるより健全な人生の可能性への配慮でもある。

 関係の微妙な変化――欠けていく笑い、薄れていく好奇心、埋められない沈黙――に注意を向ければ、カップルは軌道修正するチャンスを得る。だがそれは同時に、再接続が可能なときと、手放すべきときを見極めるための手がかりも与える。

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by NewSphere newsroom

The Conversation

Text by Emily Impett