人生を変えるかもしれない「自分への感謝」 公園で聞いたそれぞれの「ありがとう」

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 祝日のシーズンに、何に感謝しているのかを振り返るとき、私たちはしばしば自分の外側に目を向ける。大切な人たちと一緒にいられること。皆で分かち合う食事の恵み。人が集まることのできる家、そんなものに。

 けれども、自分自身に感謝のレンズを向けることは、いったいどれくらいあるだろうか。

 それはそう頻繁にあることではない。たいていの人は、誰かほかの人に感謝を伝える方がずっと気楽だからだ。だが心理学者によると、たとえぎこちなく感じたり、自己中心的に見られるのではないかという不安を感じたりしても、自分をここまで導いてくれた自分自身の資質に対して感謝する時間をとることは、健全で大切なことだという。

 自己への感謝が自然には湧きにくい理由のひとつは、人間の脳が問題を探し、否定的なことにこだわるように進化してきたからだと、テキサス大学オースティン校の教育心理学科准教授クリスティン・ネフ氏は言う。当時のふつうの生活では、目の前にある危険に常に注意を払う必要があったからだ。

 ネフ氏によれば、のんびりくつろいでいた祖先たちはライオンに食べられてしまう可能性が高く、一方で「明日はライオンがどこにいるだろう」と思い悩んでいた祖先たちの方が生き延びやすかった。

 「やろうと思えばできないわけではないけれど、脳が安全を保つためにつねに問題を探そうとする、その自然な傾向を乗り越えなければならないのです」と彼女は話す。

 オハイオ州立大学統合健康センターのディレクター、マリアナ・クラット氏は、もし人々が1日5分だけでも自分自身を思いやりの目で見つめる時間を持ったなら、その日の過ごし方は違ってくると言う。彼女は、自分の強みだけでなく自分が抱えている困難にも目を向けることを勧めている。それらの困難を、私たちを思いがけない場所へ導いてくれるかもしれない機会として捉えることができるからだ。

 今回、公園で声をかけた何人かの人々が、自分自身のどんなところに感謝しているかを語ってくれた。

◆前向きに見る
 26歳のロレンソ・クルスさんはドミニカ共和国で育ち、最近ビジネスの学士号を取得してからボストンに移り住んだ。

 子供のころ、彼は生活に必要な基本的なものさえ欠けている状況を経験したが、10代になると引っ越したことで暮らしが楽になり、旅行に行き、教育を受け、視野を広げることができるようになったという。

 「つらい子供時代があったことに感謝している。あの経験があったからこそ、他の人たちがあまり目を向けなかったり、じゅうぶん感謝していなかったりする、さまざまなことに感謝できるようになったから。人生をどう見ているか、その見方に感謝している」とクルスさんは言う。

 自分自身に感謝の気持ちを表すために、クルスさんは自分にこんな許可を与える。「旅行に行ってもいい、ドラマを一気見してもいい、バーに遊びに行ってもいい、夜中の12時にピザを食べてもいい、とね。ぼくたちはみんな、自分をジャッジして必要以上にプレッシャーをかけがちだと思う。だからときどき、自分に休みをあげて、ここまでやってきた自分にありがとうと言う必要があるんだ」

◆与えること
 40代でシングルマザーのアナ・アニトアイエさんは、家庭生活をやりくりしながら、教えることを通じて地域社会に貢献している自分のあり方に感謝している。

 「私は移民で、1995年にアメリカに来ました。与えられた課題をきちんとこなし教育を続けてきた自分に本当に感謝しています。そのおかげで、ここまで多くのことを自力で成し遂げることができたし、ヨーロッパにいる家族を助けることもできています」と、中等学校の数学教師であるアニトアイエさんは話す。

 「今の社会は、自分が何に感謝しているかにあまり目を向けていないと思う。もっとそのことを実践すべき。そうすれば、もっと幸せな地球になると思う」と彼女は言う。

◆チャレンジすること
 スイス在住の小学校教師、ララ・フラクさんは、自分の勇気と人を思いやる気持ちに感謝している。彼女はキャリアチェンジを目指して、ニューヨークでバーテンダーのクラスを受講していた。

 「私は、誰に対しても公平なチャンスを与えられる人間であること、そして人に心を開いて新しい人と出会うことを恐れない自分に、とても感謝している」と29歳のフラクさんは言う。

 「私はいつも、ほかの人にとっては居心地が悪いような人生の一歩でも、自分はそれを踏み出すことを怖がらないと言ってきた。私にとって人生でいちばん大事なのは、いつか振り返ったときに本当に生きてきたなと思えること。怖いときや新しいことに挑戦し、知っているものに別れを告げなければならないときでさえ、本当にやってみようとしてきた自分に感謝している。そんな一歩を踏み出す勇気が自分にあることに感謝している」

◆セルフケア
 ニューヨークのマーシー大学に通う学生ホセ・サンティアゴさんは、自分の楽観性を強みだと認識している。

 「ぼくは物事のマイナス面を見ない。どんな状況も自分が成長するチャンスだと捉えている。毎日を祝福だと思っている。だって今日目を覚ますことのできなかった人もいるのだから」と18歳の彼は言う。

 「自分への感謝は、ときには一日の始め方そのものを通して表している。もし気分が沈んでいるときは、気持ちのいいシャワーを浴びて、スキンケアやヘアケアのルーティンをして、子供のころの楽しい思い出を思い出させてくれるような曲をかけて一日を始める」

◆粘り強さ
 ニューヨーク市で俳優をしている54歳のジョー・オシャロフさんは、うまくいったときの自分の粘り強さに感謝していると言う。

 「うまくいくと言っても、それは人生やキャリアの中で、そして仕事以外の場面でも、自分を満たしてくれて困難な部分すべてを報われるものにしてくれることを実際にやり遂げられたときのこと」と彼は言う。

 自分に感謝するために、オシャロフさんはスローダウンして、公園でゆっくり座る時間をとる。そこにおいしいコーヒーがあればなおさら良い時間だ。また、アンティークショップで小さなお宝を探すことも楽しみにしている。たとえ何も買わなくても、見て回るだけで楽しいのだという。

◆行動すること
 ファッション業界を引退したスーザン・エングさんは、これまではいつも高次の存在が自分に与えてくれたものに感謝してきたが、その多くは自分が行動に移したからこそ得られたものだと自分自身にはなかなか言ってこなかったと話す。

 「私は自分が優しい人間であることに感謝している。人に親切でいられることにも感謝している。我慢強くいられる自分にも感謝している。そして、行動を起こせる自分、やってみようと思って動ける自分であることにも感謝している。私はずっと目標志向の人間で、何ごともあきらめないできた。だからこそ、そうした自分の特性に感謝しているのだと思う」とエングさんは言う。

◆食事を整えること
 会計士のデア・シュパティさんは、自分は運動が得意な方ではないと言うが、とくに食事の面で体を大切にしようとしている自分に感謝していると話す。

 「歩いたり走ったり運動したりするよう自分を奮い立たせることもあるけど、食べ物に気をつけることに関しては自然にできる。そのことには感謝している」と24歳のシュパティさんは言う。

 「それから、働きたいと思える自分にも感謝している。もし仕事をしたいという気持ちがなかったらすごく嫌だと思う。自分で稼ぎたい、家族の家計に貢献したいと望めることに感謝している」

◆自己愛
 大学時代からの友人であるエミリー・ミルナーさん(33)とミーガン・ヒックスさん(32)は、ニューヨークを一緒に訪れ、歩いていた。

 「私は自分に考える時間を与えることで、自分自身への感謝を示すようにしています。その時間に、今の自分の人生をつくってくれた過去の自分にありがとうと言うんです」と、コロラド州セダリアに住むマーケティング職のミルナーさんは言う。

 「多くの意味で、私たちは自分を卑下しがちな社会に生きています。それに、誰かを大事にしているときには自分の内面を振り返る必要はない。内面を見つめるのは難しいことだから。だから人を大切にすることや誰かに感謝することを、内省から逃れるための手段として使ってしまう人もいる」とミルナーさんは続ける。

 「自分自身に感謝することは、最大の自己愛のかたちだと思う」とヒックスさんは言った。

By CATHY BUSSEWITZ

Text by AP