欧州に残る女性蔑視――「所有物」視と性暴力 仏マザン、伊ミア・モーリエ事件から見える現状

ジゼル・ペリコ氏|Obatala-photography / Shutterstock.com

 性暴力を告発する#MeToo運動は、2017年にアメリカ発の#MeToo拡散を契機に世界に広がった。その影響で、性暴力の被害者は以前より声を上げやすくなり、社会の意識も変わってきていると言われている。だが性暴力が消えてなくなる気配はない。

◆性暴力犠牲者の大半は女性
 性暴力の被害者の大半は女性だ。フランス国立人口学研究所(INED)が2万6000人以上を対象とした調査によれば、生涯で少なくとも一度の性的暴行、強姦未遂、または強姦の被害を受けたことがあると回答した女性は5.5%なのに対し、男性は1.4%だった。これは、女性の生涯被害経験率が男性の約4倍であることを示している。

 欧州は世界の中では男女平等が比較的進んでいる地域とみなされている。実際、国連開発計画(UNDP)のジェンダー不平等指数(GII)と、世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数(GGI)では、例年上位を占めるのはヨーロッパ諸国だ。だがそんな欧州においても、女性を所有物とみなして、性暴力をふるう事件は後を絶たない。

◆フランスのマザン事件
 フランスでは、薬物で妻の意識を失わせ、ネットで募った男たちに性暴力を加えさせていた事件が公になり、社会を騒がせた。2024年末の裁判では、元夫とほかの男51人全員に有罪判決が言い渡された。被害者のジゼル・ペリコ氏は、名前も顔も隠さず、公開裁判という勇気ある選択をした。

 彼女は、裁判の初めにその理由を次のように述べている。「性被害を受けた女性がみな、マダム・ペリコができたのだから私だってできると思ってほしい。性被害を恥ずべきものだと思ってほしくない。恥ずべきなのは私たちではなく、彼らだ。私のケースが、ほかの人の役に立ってほしい」。ペリコ氏の毅然とした姿勢は実に印象的で、3月には米タイム誌の「2025年の女性」の一人に選ばれた。ただ、その栄誉自体が、被害を公にする一歩が今なおまれで難しいという現実を物語る。

◆イタリアのミア・モーリエ事件
 イタリアでは、この夏フェイスブックのページ「ミア・モーリエ(私の妻)」が大きく取り沙汰された。このページは2019年に開設され、今年5月から本格的に始動したもので、3万2000人近くのメンバーを抱えていた。メンバーの男性は、このページで自分の妻だとする女性の写真を投稿し合っていた。その写真は、水着や下着姿で明らかに隠し撮りされたものや、ごくプライベートなものを含んでいた。投稿に寄せられたコメントは、侮辱的で卑猥な内容だった。作家のカロリーナ・カプリア氏がまずこのページをSNSで告発し、それを受けて複数の苦情がメタと地元当局に寄せられたことから、フェイスブックは8月20日にこのページを閉鎖した。(ユーロニュース

 だが、その翌週の8月27日には、欧州議会議員のアレッサンドラ・モレッティ氏が、ネット上の別のフォーラムを新たに告発した。2005年から存在するそのフォーラムでは、政治家を含む著名な女性の写真を加工したポルノまがいの画像が数多く投稿されていたという。自身の写真も使われていることを確認したバレリア・カンパーニャ議員は、加工画像に寄せられるコメントは「性差別的で、下品で暴力的」だと形容している。(ウエスト・フランス紙

◆それでも黙する多数の女性
 女性政治家たちは、声を大にして抗議する姿勢を示した。だが、ミア・モーリエ事件の被害者である一般女性たちは、今のところ訴える様子を見せていない。欧州の国際テレビ局であるアルテは9月末時点で匿名でも取材に応じられない当事者が多い現状を伝えた。

 ミア・モーリエ事件の被害者のために早い時期から立ち上がったデ・パチェ弁護士も、被害女性のうち連絡を取ってきた人はごくわずかだと語る。同弁護士によれば、被害者たちは「自分の名前が表に出ること」を、あるいは「離婚」を、「子供たちの父親が告発されること」を、または「夫に殴られること」を怖れ、口を閉ざすのだという。(同)

Text by 冠ゆき