自閉症で話さない私が、あなたに知ってほしいこと
自閉症と神経多様性を象徴する虹色の無限大シンボル(写真はイメージ)|Veja / Shutterstock.com
著:Timothy HoYuan Chan(オーストラリアン・カトリック大学、PhD Candidate, Sociology, Faculty of Education and Arts)
私の自閉症との歩みは、3歳3か月で診断されるよりもずっと前に始まっていた。
家族は生後15か月ごろから自閉症の特徴に気づいた。人を見ようとせず、名前を呼ばれても反応しなかった。おもちゃで遊ぶ代わりに、一列に並べていた。何か欲しいものがあると、人の手を引いて取ってもらった。人混みの中や、予期せず日課が変わると、頻繁にメルトダウン(訳注:強い感覚過負荷による制御不能なパニック状態)を起こしたが、なぜ自分が取り乱しているのかを伝えることはできなかった。
後に、自閉症と診断された。私が自立した、充実した人生を送ることはできないかもしれないと聞き、家族は悲しんだ。
しかし母はすぐに必要な支援を整えた。まもなく私の日々は、在宅での集中的な行動療法や言語療法、そしてその他の療育サポートで埋め尽くされるようになった。だが残念ながら、私は話すことを身につけることはできなかった。
◆別の方法でコミュニケーションをとることを学ぶ
転機は9歳のときに訪れた。拡大・代替コミュニケーション(AAC)の一種であるサポート付きタイピングを学び始めたのだ。私はキーボード付きの機器「ライトライター」を使い、入力すると音声で読み上げてくれる。入力中は別の人が私の肩に触れる。この触覚が身体意識を高め、メッセージの伝達に集中する助けになる。
学校でもサポート付きタイピングを使い、現在は大学院で博士課程の候補生として研究を続けている。研究テーマは、発話がほとんどない、不安定、あるいは全くない自閉症者、もしくは複雑なコミュニケーションと高度な支援を必要とする人たちの神経多様性についてだ。
サポート付きタイピングにより、私はより豊かに生きられるようになった。発話しない人として初めてTEDxトークを行い、自伝も執筆した。この記事もサポート付きタイピングで書いた。
◆自閉症者が話さないことはどれほど一般的か
自閉症は、コミュニケーション、対人関係、世界の知覚に影響を与える。自閉症者は社会的コミュニケーションに違いがあり、レゴや鉄道など特定の対象に強い関心を示すことがある。
2022年時点で、オーストラリアの自閉症者は29万900人だった。そのうち約3分の1が発話をしない。
この発話しない自閉症コミュニティは社会的に弱い立場にあり、しばしば受け入れられず、排除される経験をする。その一員として、いくつかの誤解を解きたいと思っている。
◆誤解1:私たちは言語を使わない
発話しない自閉症者は、音声で意思を伝えることはできない。しかし、多くは言語能力があり、つまり、言語を理解し、用いることができる。
私は視覚的思考者で、世界を絵やイメージとして感じ取っている。初めのうち、言葉は意味のない音に過ぎなかった。6歳ごろ、言葉が物事を表し、意思疎通に使われる記号だと気づいた。人々の言葉と彼らの行動を結びつけることで、言語の象徴的な性質を理解し始め、それがコミュニケーションの助けになった。
感覚と運動の違いにより、複雑なコミュニケーションを必要とする自閉症者は、コミュニケーションや日常生活、社会参加のために支援を必要とする。
たとえば、手・腕・肩への軽い接触は、位置・バランス・動きに関するフィードバックとなり、絵を指さしたり、綴ったり、タイプしたりする助けになる。また、サポートワーカーは私たちが集中し、落ち着いていられるよう手助けしてくれ、コミュニケーションを可能にしてくれる。
◆誤解2:私たちは他者の心を理解しない
自閉症者、とりわけ複雑なコミュニケーションを必要とする人々は、体験したことの意味を読み解き、理解し、抽象化するために、余分な時間を要する。
しかし、努力と時間があれば、多くの発話しない自閉症者は共感し、他者の心の働きを理解できる。
その手段の一つとして、ソーシャル・ストーリーを用いて心理的・感情的な状態を理解することがある。これは社会的な場面とその場への参加の仕方を教えてくれる。事前に何を予期すべきかを説明し、リハーサルする時間を与え、実際の場面で拠り所として参照できる。
たとえば初対面のとき、私たちは圧倒されることがある。そこでソーシャル・ストーリーを使い、何が起こり得るかを把握し、適切な距離感を保って自己紹介し、質問をし、質問に応じる。ストーリーは新しい情報の処理を助け、過負荷になって休息が必要な際に、どう人に伝えるかも示してくれる。
社会的な状況を処理するための時間と空間、そしてそれを行うことを認めてもらえることは、私たちが社会生活を円滑に営む助けとなる。
◆誤解3:私たちは理由なく体を揺らし、ハミングし、ときに叫んだり走り去ったりする
自閉症者、とりわけ複雑なコミュニケーションを必要とする人々は、慌ただしい環境で安全でないと感じることがある。たとえば、強い照明や、人の話し声・人が動き回る物音は、感覚の過負荷と苦痛を引き起こす。その結果、ストレス水準が高まり、適切に反応する力が落ちる。
発話しない自閉症者は、この過負荷を管理し感覚的な苦痛をやわらげるために、さまざまな自己調整の戦略を用いる。横になる、点滅する光や回転する物を見つめる、圧倒的な刺激を遮るためにハミングする、あるいは体を揺らす・回る・くねらせてバランス感覚を取り戻す――といった行動である。これらの行動は自己調整を可能にする。
しかし、こうした戦略でも不十分なときは、叫ぶ、走り去る、メルトダウンを起こすなど、一般的ではない行動に出ることがある。
この種の行動は、私たちが「適切なふるまい」を理解していないから生じるのではない。要求度の高い状況で、強い不安や危険を感じたときに生じるのである。
静かな場所が確保できれば、私たちは落ち着きを取り戻し、懸念される行動に頼らずに済み、安全とコントロール感を回復できる。
◆次に会ったときは
だから、次に発話しない自閉症者に出会ったら、半歩こちらに歩み寄ってほしい。私たちに、処理して考え、返答するための時間と空間を与えてほしい。
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by NewSphere newsroom
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