なぜマッチしない? 恋愛アプリで男性がつまづく理由 1万人データ分析

Tero Vesalainen / Shutterstock.com

 恋愛は本来、自由な意思と感情の交流によって育まれるはずだ。だが、それがスマートフォンの画面上で行われる時代においては、恋愛すら「構造的な格差」の影響を免れない──そんな現実を突きつける研究結果が、欧州から発表された。

 ドイツのミュンヘン大学とイギリスのマンチェスター大学に所属する社会学者らが、チェコ国内のマッチングアプリを対象に1万人超の利用データを分析。その結果、特に男性利用者が恋愛競争においてスタートラインから不利な位置に置かれていることが判明した。研究は科学誌プロスワンに掲載された。

 調査が行われたのは、チェコの首都プラハと第二の都市ブルノである。両都市において利用されていたモバイル型マッチングアプリの実際のデータを分析することで、研究者たちは恋愛市場における「構造的な非対称性」の存在を数値で示した。

 注目すべきは、利用者の男女比である。ブルノでは女性が全体のわずか20.4%しかおらず、プラハでもその比率は24.9%にとどまっていた。つまり、男性利用者が女性利用者の約3〜4倍に達していたことになる。この性比の偏りは、市場構造そのものに根本的な不均衡をもたらしていた。

 アプリ内でやり取りされる「スワイプ」、つまり関心を示す行動の分布を見ても、状況の偏りは顕著だった。ブルノでは、女性が平均して35回スワイプされていたのに対し、男性はわずか1.6回しかスワイプを受け取っていなかった。プラハでも女性の平均スワイプ数が53回だったのに対して、男性は4.2回にすぎないという結果が出ている。さらに、最も魅力度が高いとされた男性でさえ、平均的な女性よりスワイプ数が少ない傾向があり、恋愛市場において「選ばれる側」と「選ばれない側」の差が構造的に固定化されている様子が浮かび上がった。

 研究チームは、ユーザーの恋愛行動パターンにも注目した。男性は、しばしば自分よりも明らかに魅力度が高い女性にスワイプを送る傾向が強く、いわば「憧れへの追求」が顕著だった。一方で、女性は相対的に自分と近いか、むしろわずかに魅力度が下回る相手を好む傾向を見せていた。こうしたすれ違いが、マッチ率の非対称性を拡大させていると研究者たちは分析する。

 実際にマッチングが成立したカップルを分析すると、双方の魅力度は非常に近いという結果が得られている。いくら理想の相手にアプローチしても、最終的に成立する関係は「釣り合った者同士」である傾向が強いという。これは、魅力度の高い相手からの拒絶を経て、より現実的な関係に落ち着いていく「拒絶と妥協のプロセス」が、無意識のうちに繰り返されていることを示している。

 この点について、著者らは、「私たちの研究は、チェコのマッチングアプリにおいて、男性は往々にして高望みする傾向がある一方で、実際に成功するマッチは、魅力度が似通った者同士で起こることを示しました。この傾向は、もともとの好みによるものではなく、むしろ拒絶の積み重ねの結果だと考えられます」と述べる。

 さらに、「マッチングの成立は、男性側の望みよりも、むしろ女性側の選好に沿っている場合が多いのです。これは、マッチング市場において女性が優位な立場にあること、そして多くの場合、最初の一手を求められるのが男性であることに起因していると見られます」とコメントしている。

 つまり、この研究が示したのは、オンライン恋愛における敗北が必ずしも「魅力」や「やり方」の問題ではないということである。出会いの場に立ったその瞬間から、すでに勝敗の条件は整えられており、個人の意図とは無関係に、構造がすべてを決めてしまう可能性すらあるのだ。

 今回の研究は、チェコ国内の事例に限ったものであるものの、その背後にある構造原理は他国のマッチングアプリにも十分適用可能だろう。オンライン恋愛を取り巻くアルゴリズムと人口構造が、私たちの「選ばれる可能性」にどう影響しているのか──その仕組みを知ることが、現代の恋愛で成功する秘訣かもしれない。

Text by 白石千尋