元カレから「君は僕のきょうだいだった」…DNA検査で判明した衝撃の「生殖詐欺」
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高校時代に付き合っていた相手が、実は自分の異母兄弟だった——。映画のような実話だが、「生殖医療詐欺」と呼ばれる深刻な被害に巻き込まれた結果だという。
◆DNA検査で見えた、知られざる兄弟たち
コネチカット州に住む2児の母親のビクトリア・ヒルさんは数年前、健康上の不安から、遺伝子検査会社「23andMe」のDNAキットを購入した。検査結果は、彼女の人生を一変させることになった。ヒルさんがイギリスのテレビ番組で説明した。
23andMeのサイト上に表示された結果には、「半分血のつながった兄弟姉妹」が複数人表示されていた。最初は単なる誤りだと思ったが、調査を進めるうち、さらに多くの異母兄弟姉妹がいることが分かった。その数は現在、少なくとも25人にも上るという。彼女の実の父親は、母親の不妊治療を担当していた医師だった。
ヒルさんの母親は、コールドウェルという医師のもとで8年以上治療を続けていたが、この間に5回妊娠し、2人の子供を産んだ。事実発覚後、ヒルさんはコールドウェル氏と対面し、なぜそんなことをしたのかと聞いたところ、コールドウェル氏は「子供を作るビジネスだった」と語り、ほとんど反省の色を見せなかったという。
◆高校時代の恋人が実の兄弟だった
さらに驚きの事実が続く。2023年5月、高校の同窓会で旧友たちにDNA検査の結果について話していると、かつて交際していた男性が何かに思い当たったように黙り込んだ。彼もまた、両親の不妊治療中に授かった子供だったのだ。
それから数ヶ月後、家族旅行に出かける直前、ヒルさんの携帯に元恋人からメッセージが届いた。23andMeの画面キャプチャとともに「君は僕のきょうだいだ」という言葉が添えられていた。二人は同じ医師を父親に持つ異母兄弟だったという。米NBCコネチカットテレビの取材に応じたヒルさんは、「違う道を歩んでいたら、私たちは結婚して子供を持っていたかもしれない」と動揺の胸中を明かしている。
「心に深い傷を負った」と、ヒルさんはCNNの取材で語る。「今では誰かの顔を見るたび、この人も兄弟かもしれないと考えてしまう。誰が血縁者かまったく分からないのだから」
◆広がる被害と法整備の訴え
ヒルさんの事例は、不妊治療医が患者に無断で自分の精子を用いる「生殖詐欺」の代表例として注目を集めている。CNNによると、アメリカ国内で少なくとも30名の医師がこのような不正行為で批判を浴びているという。
コネチカット州を含む多くの州では、こうした行為を明確に犯罪とする法律が整っていない。NBCコネチカットテレビによると、ヒルさんと同じくコールドウェル医師の娘であるジャニン・ピアソンさんは2023年、医師を相手取って裁判を起こした。だが法的根拠が乏しいため、訴訟の進展は思うように進んでいない。
被害者たちは現在、連邦レベルでの法制化を目指して運動を展開している。