被害者に寄り添い、証言助ける法的補助犬 仏の小児性愛者の裁判でも活躍

アメリカの法的補助犬(2014年)|David Walsen / Wikimedia Commons

 フランスでは現在、フランス史上最大規模の被害者が出たとみられる児童性的虐待に関する裁判が進行中だ。これは、元外科医が30年以上にわたり、幼い患者たちや親戚の子供たちに性的暴行を繰り返していたとされる事件で、被害者はわかっているだけでも300人を超える。元外科医の名前をとって、「ル・スクアルネック事件」と呼ばれる。

 進行中の裁判は、そのうち299人の患者に対する強姦と性的暴行の罪での告発に関わるもので、複数の被害者が証言台に立つことになる。被害者らは、心理学者や弁護士のサポートのほか、法的補助犬制度の利用が可能となっていて、この制度の有用性が改めて耳目を集めている。

◆法的補助犬制度とは
 法的補助犬制度とは、審理中に被害者が法的補助犬の同伴提供を受けられる制度のことだ。言い換えると、被害者は、最初の審問から法廷まで、法的手続きのすべての段階で、補助犬の付き添いを望むことができる。

 この制度は、2019年に欧州初の試みとして、フランスが導入した。その結果、有用性が認められ、2023年には全国的な普及を狙い、司法省と、動物保護協会や被害者連盟などの関連団体間で協定が結ばれた。フランス3(3/17)によると、フランスには現在、23匹の補助犬が存在し、その半数近くがル・スクアルネック裁判の被害者たちのために動員されている。

 法的補助犬となった犬は、いずれも2年の専門的な訓練を受けている。補助犬としてふさわしいかどうかの一番の決め手となるのはその性格だという。補助犬のトレーナーによれば、補助犬になるには、さまざまな人との交流を楽しめる社交性があり、人との交流を好むが、自分を押しつけたりはしないバランスの取れた性格が必須だという。(フランス3、3/11)

◆裁判で再現される被害者の苦痛をケア
 戦争体験や、天災被害、命や体に危機を感じる出来事、性暴力被害など、強い恐怖やショックを感じる出来事を経験した人が、精神的な後遺症である心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症することがある。

 犯罪被害者にとっては、忌まわしい記憶を呼び起こすだけでも大きなストレスである。裁判に関われば、人前でその記憶を言語化せねばならず、その苦痛は相当なものになる。そんな被害者たちの緊張を解きほぐし、発言を容易にする効果があるのが補助犬だ。

 補助犬の訓練に携わる専門家は、「動物と触れ合うと、幸福感につながるホルモンが分泌され、気持ちが落ち着き、心拍数と血圧が下がる」と説明する(フランス3)。また、この制度をフランスに導入した検察官のアルメンドロス氏は、「犬は人間と同じ視点を持たないからこそ、人を批判することがなく、心理的な慰めをもたらしてくれる」とも指摘する(国立司法学院)。

 被害者の発言を容易にするという利点のみならず、被害者の心のケアにも通じる法的補助犬制度。アメリカでは15年以上前から刑事裁判で実施されており、法的補助犬の数も約250匹とされる(国立司法学院)。フランスにおいても、今後さらなる普及が見込まれる。

Text by 冠ゆき