アルコールの代わりに? 大麻成分入り飲料、アメリカで人気
アメリカで年末年始のパーティーシーズンにアルコールの代わりに注目されている飲み物が大麻の主成分を含有した飲料だ。酒を飲まなくても気分を高揚させる効能があるとして人気を集め、酒屋、ガソリンスタンド、食料品店などで簡単に購入できる。この人気飲料の規制を緩和する州が相次ぐなか、逆に規制を強化する州も現れている。
◆大麻成分0.3%以下であれば合法
アメリカでは2018年の農業法において、大麻の主成分「テトラヒドロカンナビノール(THC)」の濃度が乾燥重量で0.3%以下の大麻草、種子、抽出物などを「ヘンプ」、0.3%超を「マリファナ」と定義し、ヘンプの栽培を合法化した。0.3%以下の根拠は、精神作用が生じる可能性が低くなるからだ。この法律により、精神作用が得られる製品が酒とともに、またはその代替品として販売されるようになり、現在急増している。
多くの州はTHC飲料の販売を特別に規制する法律を制定していない。また、州によって、大麻草由来の「カンナビジオール(CBD)」製品に含まれるTHCの許容量は大差がある。ガーディアン紙によると、大手酒類販売チェーン店などは、明確にTHC飲料が禁止されていないことを理由に、全国各地で販売を開始している。
◆大麻成分入り飲料の合法化相次ぐ
近年、THC飲料の販売を認める州法の可決が相次いでおり、州によって酒屋、ガソリンスタンド、食料品店、バー、レストラン、インターネットなどで購入できる。
ミネソタ州では 2023年、THC飲料を酒販売店において販売を認める法律が成立した。それ以降、州内の販売店の棚にTHC飲料が並び始めている。コネチカット州でも昨年5月に酒販売店や大麻販売認定店に対してのみTHC飲料の販売を認める法律が成立している。
ミズーリ州では向精神作用の強いデルタ8 THC飲料などの製品はバーからコーヒーショップまでどこでも買うことができる。同州ではここ数年、中毒性のある大麻製品を実質的に禁止する法案が提出されているが、大麻業界が反対している(ミズーリ・インデペンデント)。
テキサス州では2019年以降、バーや酒販売店などが大麻製品の販売許可を申請するのを認めている。
◆州によって規制強化も
その一方、一部の州が州内の酒類販売免許業者によるTHC製品の販売を禁止する決定を下し、大きな話題となっている。
アイオワ州では娯楽用大麻は違法だが、2018年農業法ではヘンプは認められている。この規制の抜け穴を利用して、缶のサイズを大きくして含有量を増やす THC入り飲料販売会社が現れている。強炭酸のスパークリングウォーターにTHCを10ミリグラムも配合していた飲料会社もあった。そのため、州政府は昨年7月、飲食用の大麻製品のTHC含有量を1食あたり4ミリグラム、容器あたり10ミリグラムに制限し、同時に年齢制限を設けた。(アイオワ・パブリック・ラジオ)
カリフォルニア州ではTHC飲料による悪影響が報告されたため、ギャビン・ニューサム州知事が昨年9月、すべての大麻飲料の緊急禁止を発令した。しかし、一貫した対応が取られていないとの報道もある。
ハワイ州でも昨年11月、保健省がCBD飲料のTHC濃度を連邦政府の基準値の数千倍低い、0.00028%に規定した(AP)。
ミズーリ州では大麻業界のリーダーたちが独自の法案を推進し、飲食用の場合1杯あたりTHCを5ミリグラムまで、飲料は1杯あたり10ミリグラムまでとすることを提案した。一方、州アルコール・タバコ取締局は11月、認可を受けた酒類小売業者に対して麻由来製品の販売を禁止する新たな州規則を提案した。
同州のアルコール販売業者のスティーブン・ブッシュ氏は「今は規制する仕組みのないことが、我々の最大の問題だ。 21歳以上という年齢制限は法律ですらない」と述べる(ミズーリ・インデペンデント)。
テキサス州では2019年の法律が成立して以来、THC入り飲料や炭酸飲料が市場に出回るようになった。同州のダン・パトリック副知事は昨年12月、この状況について「小売業者は農業法を悪用して、規制されていないTHCを一般向けに販売し、簡単に手に入るようにした。これらの小売店は、成人に販売するだけでなく子供たちを標的にし、危険なレベルのTHCにさらしている。2023年以来、危険なTHC製品を販売する店が何千も出現し、その多くは、麻薬の売人から入手したマリファナに含まれるとみられるTHC含有量の3倍から4倍の量を飲料などの製品に入れ販売している」と危機感を示し、あらゆる形態の消費可能なTHC製品の販売禁止を盛り込んだ上院法案を発表した。
◆酒の代替品として
この法案に関して、コミュニティ・ビール社の共同設立者である醸造家のジェイミー・フルトン氏は、二日酔いを避けるため、あるいは治療目的で酒の代わりにTHC飲料を購入する人が多く、その製品は睡眠サイクルを改善し、生活の質を向上させると強調し、法案への警戒感を示す(ダラス・オブザーバー)。
酒の代替としてTHC飲料の人気が高まるなか、THC飲料が世界中で販売されつつある。人々がそれを目新しさではなく、酒の代わりになる飲み物として受け入れ、それが定着していくかどうかはまだ不透明だ。
酒を大麻飲料に置き換えるうえでもう一つの障壁は価格だ。6本入りのTHC飲料は通常30ドル(約4700円)以上するため、すぐにパーティーの定番にはならないとも指摘されている。