なぜ「脳の腐敗」が今年の言葉に? オックスフォード大出版局
オックスフォード大学出版局は2004年以来、毎年「今年の言葉」として、その年の流行語を発表している。今年の大賞には、「脳の腐敗(brain rot)」が選ばれた。くだらないネット上のコンテンツを過剰に消費することによる、精神や知力の悪化を意味しており、ネット時代ならではの皮肉と自省に満ちたワードだと評されている。
◆もはや生活に必須 流行語はネットから
米ノースイースタン大学のアダム・クーパー教授によれば、デジタル・メディアの台頭により、主要な辞書は、英語の使用方法のトレンドを分析するための重要なデータセットとして、オンラインのコミュニケーションに目を向けるようになったという。「インターネットは、この『今年の言葉』の登場と発展、そしてそういった権威が注目するものへの人々の関心と密接に結びついている」と述べる。
オックスフォード大学出版局によれば、「脳の腐敗」は、オックスフォードの言語学者が監修したほかの5つの候補を抑えて、3万7000人の一般投票で見事1位に輝いている。この表現の使用頻度は、2023年から2024年の間に230%も増加。今年は特にTikTokでよく使われたということだ。
◆人は楽な方に流れる 思想家の指摘そのまま
「脳の腐敗」はデジタル文化の代名詞とも言えるが、実はこの言葉の起源は19世紀に遡る。アメリカの思想家、ヘンリー・デヴィッド・ソローの1854年の著書『ウォールデン 森の生活』の中で初めて登場した。
ソローは、社会が複雑な考えを軽んじる傾向にあること、そしてそれが精神的、知的努力における一般的な衰退の一因になっていることを指摘した。自著の中で「イギリスではジャガイモの腐敗をなんとかしようとしているが、もっと広く致命的に蔓延している脳の腐敗をなんとかしようとする者はいないのだろうか」と述べている。
◆自虐が流行の理由? 笑いで済まされない問題も
今回注目すべきは、誰がこの言葉を使っているかという点だ。フォーブス誌は、ソローが社会を批判するために「脳の腐敗」を用いたのに対し、今日のネット・ユーザーは、デジタル過多の結果としての精神的停滞を表現するために、ユーモラスかつ自虐的にこの言葉を選ぶことが多いとしている。
サイエンティフィック・アメリカン誌も、「脳の腐敗」という言葉は、その原因とされるコンテンツを消費したり制作したりする人々に最も使用されているだろうと述べている。
その一方で、終わりのないスクロールやAI(人口知能)がもたらす認知的・精神的健康への影響は、深刻な議論を巻き起こしている。大量のコンテンツを吸収し対処しようとすることで、精神的な疲労が生じ、集中力や生産性の低下といった「脳の腐敗」につながるという報告もあるという。(フォーブス誌)
上述のノースイースタン大学のクーパー教授は、「脳の腐敗」という言葉には、否定的な感覚が内在していると指摘。しかし、問題とするコンテンツの本質とは何か、何を提供しているのか、代替手段はあるのかなど、今一度世代を超え、ソーシャルメディアとの関わり方が異なるグループの間で話し合うべきことがあるかもしれないと述べている。