海外セレブに人気のビタミン点滴、潜む健康リスク 専門家が警鐘
ビタミンを静脈に直接点滴して体内に取り込むいわゆるビタミン点滴療法は、アメリカのセレブたちの間で10年ほど前から行われてきた。疲れや二日酔い、アンチエイジング、免疫アップなどに効果があるとうたわれる「奇跡」のような健康療法で、アメリカから世界に広がっている。だが、専門家らはこの「健康法」がもたらす可能性のある健康上のリスクに注意を促している。
◆高額でも人気
ビタミン剤の点滴は、1950年代にがん治療の一つとして用いられたのが最初だが、今ではハリウッドセレブらの健康法として知られるようになっている。点滴の中には、ビタミンB、ビタミンC、マグネシウム、カリウム、亜鉛、NAD+などが含まれる。ビタミンなどの栄養剤を経口服用するよりも、直接血液に入れたほうが体への吸収率が高く効果的だというのがその論理だ。
リアーナ、ジャスティン・ビーバー、カーラ・デルヴィーニュらが常用しているとされ、ブリュット誌によると、30~60分の点滴にかかる値段の相場は100~300ドル(約1万5000~4万6000円)だが、一部にはより高額なケースもあるという。
◆アメリカから世界に広がる
人気は一般にも広がっており、アメリカの特にマイアミやラスベガスでは、自宅での点滴サービス業も生まれている。種類もデトックス、リラックス、肌のトーンアップ、腹痛予防などさまざまだ。(TF1)
これらのサービスの流行は海を越えて欧州にも届き、すでにスペインやイギリス、アイルランドなどで展開されている。また、つい最近ではスイスのフランス語圏でも急速な広がりを見せている(RTS、10/9)。
◆科学的に証明されていない効果
TF1のインタビューに答えたビタミン点滴療法の常連たちは「リラックスできる時間だし、点滴の後は元気になれる」「時差のある旅行の後も利用している。おかげで疲れが取れるのがはやい」とその効果を強調するが、アメリカ、カナダ、スイスなど各国の保健当局は、ビタミン点滴療法の有効性は科学的には証明されていないと口をそろえる。
アメリカの保健当局は、衛生管理が十分でないビタミン点滴療法提供施設があることを指摘している。また、カナダ・モントリオールでは、ビタミン点滴療法を受けた人が敗血症で亡くなったことを受け、ケベック医師会やケベック薬剤師協会らが共同でこの問題に関する意見書を著した。そこには、ビタミン点滴療法は、科学的根拠に基づいていないということ、受ける側の健康状態によっては、血液の感染症である敗血症を引き起こすリスクがあることが明記されている。
◆皆無ではない健康リスク
ビタミン点滴療法が持つ健康へのリスクは敗血症だけではない。ニューヨークのロチェスターメディカルセンター大学のファイセラ教授は、これらの点滴に含まれる添加物が健康に及ぼし得る影響が不明である点に言及している(ウェスト・フランス紙)。
また、ビタミンC の高摂取は、特に腎障害患者において、腎結石の原因と考えられる尿中シュウ酸や尿酸排泄量を増加させる可能性がある。マグネシウムまたはカリウムの血中濃度に異常がある人では、不整脈や筋力低下などの問題が生じる可能性がある(MSDマニュアル)。ビタミンなどの過剰摂取は腎臓や肝臓に負担をかけるため、腎臓病を患ったことがある場合、高濃度ビタミンC点滴は避けたほうが良いとされる。
さらに、G6PD欠損症や鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)を患う人にもビタミンCの摂取は推奨されない。
◆ビタミンCはがん治療法?
日本にもビタミンCをはじめNAD+の点滴など、多種多様の点滴治療を行うクリニックが複数存在する。これらのクリニックのサイトには、上述したような多くの効能が挙げられている。
だがそれ以上に目を引くのは、ビタミンCの点滴ががんに効くと明記しているクリニックの多さだ。そのほとんどは、1970年代と2005年のアメリカの研究を根拠として挙げている。
だが、1970年代に医師であるキャメロン、キャンベル、ポーリングの3氏が主張したビタミンC(経口あるいは静脈投与)ががんの末期患者の生存期間を延ばしたという主張は、その後、方法論に問題があったことが判明した。そのため、この仮説を確認する目的で、経口投与による2つの研究がアメリカで実施された。だが、そのどちらもこの主張を裏付ける結果は出ていない。(20minutes紙)
もう一つの根拠として挙げられる2005年の研究はどうか。「アスコルビン酸(ビタミンC)の大量投与ががん細胞の増殖を抑制する」ことを示す研究結果が発表されたのは事実だ。だが、これはあくまで試験管内での実験であったため、人体においても同じように効果があるかどうかは不明だ。つまり、今のところビタミンC点滴ががんを治療する手段だとは結論づけることはできない。
ちなみに、世界的に有名な家庭向け医学事典「MSDマニュアル」は、ビタミン点滴療法の有効性には根拠がないことと、さまざまな副作用の可能性を挙げ、「健康な人におけるビタミン点滴療法の利用は控えるべき」と結論づけている。