コロナ、デング熱、性感染症…警戒するフランス 五輪・パラに1500万の観光客

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 パリ五輪を前に、フランスの保健当局やパスツール研究所は、感染症の拡大にも目を光らせている。どのような病気が警戒されているのか? 流行の兆しは?

◆人が集まるところに感染症リスクあり
 この夏パリで開催される五輪(7月26日~8月11日)とパラリンピック(8月28日~9月8日)には、約1500万人の観光客が訪れると見られている。そのうち外国からの訪問者は約200万人という見込みだ。それに加え、選手が数千人、また外国の報道関係者も2万人集まる見込みだ。

 新型コロナのパンデミックで身をもって知ったように、このような国際的な人の集まりは、感染症の広がりなど健康リスクを伴う。フランス保健当局も同様の認識を持っており、さまざまな勧告を出している。

 感染の懸念があるのは、主に新型コロナや百日咳などの気道感染症、蚊が媒介するデング熱、ジカ熱、チクングンヤ熱などの感染症、性的接触が感染の原因となる性感染症、また汚染された飲食物の摂取で引き起こされる食中毒だ。

◆終息していないコロナ
 新型コロナの感染数は多くはないもののフランスでは増加の傾向にある。フランス公衆衛生局(SPF)によれば、6月初旬、新型コロナを理由とする救急受診は1週間で52%増加し、1週間で1507件に上った。

 新型コロナ感染は、競技者にとっては大会出場がかかる問題でもある。実際、6月末から開催中のツール・ド・フランスでは、新型コロナ感染が原因で参加を断念した選手がいた。メダル候補と言われた陸上選手も、新型コロナ感染でフランス選手権への参加を諦めざるを得なくなった。さらに、フランス柔道連盟も8日、新型コロナウイルス感染者が出たため、五輪前の強化合宿を短縮して打ち切ったと発表したばかりだ。

◆欧州で増加傾向にある百日咳
 細菌性気道感染症である百日咳は、今年欧州で感染増加の傾向にある。日本にはワクチン未接種世代が存在するほか、追加接種を受けている成人もまれであるので、注意が必要だ。

 同じく飛沫(ひまつ)によって広がる細菌性感染症に髄膜炎がある。国立感染症研究所によると、日本では毎年わずかな感染例しか報告されていないが、世界では毎年約30万人が発症し、3万人が死亡している。欧州ではワクチン接種が義務付けられている国も少なくない。日本では2015年にワクチンが認可されたものの、接種は任意だ。

◆蚊が媒介する感染症
 デング熱やジカ熱、チクングンヤ熱などを媒介するヒトスジシマカは、2004年まではフランスにはいなかったが、年々生息地を増やし、現在では国内78の県に広がっている。

 そのため国内感染例も出るようになったが、いまだに一番多いのは輸入症例だ。今年4月半ばにもアメリカ大陸やカリブ諸島から持ち込まれたデング熱が急増し、当局は警戒の姿勢を示したところだ。

 今年の4月末までのデング熱輸入症例は2166件を数えた。5年前の同じ時期は128件だったことと比べると、違いが際立つ。またこの4ヶ月の輸入症例数は昨年1年の2019件をすでに上回る。(フランス・アンフォ、7/12)

◆性感染症対策
 フランスの保健当局は、性感染症予防にも力を入れている。クラミジア、淋病、梅毒などの細菌感染症と、HIV/AIDSやヒトパピローマウイルスなどのウイルス性感染症だ。これらの病気の感染リスクを抑えるには、コンドームの使用が推奨される。

 大会組織委員会は、すでに選手村に男性用コンドームを20万個、女性用コンドームを2万個、オーラルセックス時の性感染症予防具を1万個配布すると発表している。また啓発キャンペーンを行い、主にHIVなどのスクリーニング検査も実施する予定だ。さらに、観光客向けにも性感染症予防キャンペーンのポスターを作成している。(フランス・アンフォ)

◆食中毒への注意
 大規模なイベントでは食中毒への注意も怠れない。サルモネラ菌や、リステリア菌、腸管出血性大腸菌、ボツリヌス菌などによる細菌感染症がこれにあたる。リスクは高くないとはいえ、ひとたび感染すれば重篤な症状を呈する可能性がある病気ばかりだ。

 これらのリスクに対応するため、パスツール研究所では夏のバカンス返上で五輪期間の体制強化を決めている。パンデミックを経て感染テストも改良され、今では1つのサンプルから、最大24種のウイルスや細菌を検出できるようになっている。(TF1、7/12)

 感染症にはそれぞれ潜伏期間があるため、五輪を楽しんだ観客は帰国後の体調にもそれぞれ注意を払う必要があるだろう。

Text by 冠ゆき