フランスの解散総選挙、市民に思わぬ影響 安楽死のため出国する人も

Ludovic Marin via AP

 欧州議会選での大敗を受け、フランスのマクロン大統領は9日、国民議会(下院)解散を発表した。誰もがまさかと驚いたこの発表以来、政界は右も左も動きが目まぐるしい。またこの解散による総選挙の決定は、政治を超えた意外なところでも国民の生活に影響を与えている。

◆総選挙は3週間後
 総選挙は、マクロン大統領の発表からまず3週後の6月30日に第1回投票、その1週後の7月7日に第2回投票が行われる。選挙が行われる場所は、基本的に全国の市町村が保有する会場だ。

 フランスの市町村管轄の会場は、市民の催しなどにも用いられる場所だ。特に結婚式や地域のお祭りなどに活用される。年度末にあたる6月は、夏休み前の地域・学校・各種団体のイベントが多い月だ。良い気候であることから結婚式や洗礼式も多く執り行われる。市町村管轄の会場は比較的安価に借りられることもあり人気が高く、この時期の週末に利用しようと思えば、少なくとも数ヶ月前から予約する必要がある。

◆結婚式の中止?!
 ところが今回降って湧いた「選挙」のせいで、かねてより予約していた会場が使えなくなるという事態が全国で起きている。小さな市町村ほどほかの選択肢がないため、イベント自体の中止に追い込まれる団体も出ている。

 結婚式を予定していたカップルについても同様だ。別の会場を何とか見つけられた例もあるが、そうでない例もある。また、別会場を見つけられたカップルにも、元の予算を大きく上回る支出がのしかかる。(TF1、6/14)

 結婚式に供される食事のケータリング会社にも影響が及ぶ。フランス北部でケータリング業を営むラスピレール氏は、選挙が予定されている2つの週末に予定されている約10ヶ所のパーティのうちすでに6つがキャンセルとなったと話す。なんとか代わりの会場がないかと、同氏もここ数日は、電話、メール、SMSに時間を費やしている。(フランス3、6/18)

◆安楽死のために国境を越える決心
 国民議会解散により、審議が宙に浮いた法案も少なくない。そのうちの一つが安楽死法案だ。この春提出されたこの法案は18日に国民議会で採決が行われる予定だった。

 これが中止となったことで、フランス北部に住む男性は、安楽死するために隣国ベルギーへ行くことを決めた。この男性は多発性硬化症を患っており、四肢の自由が次第にきかなくなり、現在は片腕のみを動かすことができるが、それも長くないと見られている。(フランス・ブルー、6/16)

◆EU内では安楽死合法化が増える
 欧州連合(EU)内では、オランダが2001年、ベルギーが2002年、ルクセンブルクが2009年に安楽死を合法化した。また、2021年にはスペイン、2023年にはポルトガルも法整備を行っており、安楽死を認める国は増加の傾向にある。

 フランスでも、昨年行われた調査によれば、フランス人の83%が安楽死に賛成している。マクロン大統領も、かねてより安楽死法案の検討の必要性を認めていたが、法案の提出は遅々として進まず、何度も先送りされてきた。

 その間、難病患者から安楽死を望む訴えも絶えなかった。2021年にスイスで安楽死したコック氏は、病床にあるりながら2度もハンガーストライキを決行した。安楽死を望みながらも苦痛に耐えて今月自然死した歌手のフランソワーズ・アルディは昨年12月、大統領に宛てた安楽死への理解を求める嘆願書を公にしている。

◆政局の混乱で先行きは不透明に
 そういった背景のなか、当初の予定より遅れ、5月18日にようやく安楽死に関する法案がまとまったばかりだった。6月18日に予定されていた採決が流れた今、先の見通しは非常に不透明だ。欧州議会選挙で勝利した国民連合(RN)の議員のほとんどは、安楽死に反対の立場を取っている。

 安楽死のためにベルギーへ渡るには、特別な手続きと費用が必要だ。また隣国とはいえ外国で最期を迎える決意が必要で、精神的にも簡単な選択ではない。上述の男性も、できるならば自国フランスで最期を迎えたいと考えている。だが、残念ながら現在それは不可能なのだ。

Text by 冠ゆき