百日せきが仏で「異例の速さ」で拡大、なぜなのか? 今年すでに昨年の11倍の感染者
ここ半年ほど、欧州全体で百日せきの感染が急増している。フランスでは、今年1~5月の5ヶ月間で、すでに昨年1年間の11倍にあたる約6000人が感染(フランス・アンフォ、6/4)。幼い死者も出ており、保健機関も専門家もそろって警鐘を鳴らしている。
◆乳幼児は重症化しやすい 死に至ることも
百日せきは細菌感染を原因とする気道感染症で、空気を介して感染する。感染者1人から平均15人に伝染する非常に高い感染力を持つ疾患だ。頻度の高いせきが長く続くのが特徴で、乳幼児では重症化しやすく、まれに死に至ることもある。高齢者や妊婦にも特別な注意が必要だ。
百日せきから身を守る唯一の方法はワクチン接種とされる。乳幼児期の百日せき予防接種は世界各国で実施されているが、ワクチン接種率が低い世代があったり、ワクチンは受けても年数が経過して免疫が減衰したりするため、根絶には至っていない。
◆国によって異なる追加接種事情
現在日本では、百日せきに効くワクチンは公費で受けられる定期接種ワクチンの一つで、乳幼児期に基本合計4回の接種が必要とされる。だが、百日せき対応のワクチン接種は、1975年2月に一時中断され1981年ごろまで接種率が低いままだった。また、乳幼児期を過ぎての追加接種は任意で、費用は自己負担となる。
一方フランスでは、百日せきの予防接種は乳児期の接種だけでなく、未成年のうちにさらに2回、成人した後も基本的に20年ごとに追加接種を受けるよう指導されている。また、胎児に免疫をつけるため妊婦のワクチン接種も行われる。(フランス・アンフォ)これらの追加接種に必要な費用の大半は、健康保険でカバーされる。
◆コロナ感染対策中は百日せきも減少
だが、ワクチン接種を行っていても、万人が十全な免疫を得ることは難しく、欧州ではこれまでも3~5年ごとに夏季、百日せきが流行る傾向にあった。前回のピークは2017~2018年であったため、これまでの傾向通りあれば、今年2024年にはすでに次の流行期を終えていても不思議ではないところだ。
だが実際には前回のピーク以来、フランスにおける百日せきの症例数は減少の一途をたどり、2021年には12ヶ月未満の乳児の感染例は4件にまで減少した。公衆衛生局はこれをおそらく新型コロナ感染症対策が広く実施されたためと見ている。
◆反動による感染急増か?
そうしてその反動のように、現在、百日せきの感染例は急増している。2023年はフランス全国で2件しか報告されなかった百日せきのクラスターだが、2024年はすでに4月までに約20件のクラスターが発生している。重症化するケースもあり、すでに死者が2人出ている(ル・モンド紙、5/16)。
この傾向は欧州全体でも同様で、フランスのほかクロアチア、デンマーク、イギリス、ベルギー、スペイン、ドイツで感染が急増している。2023年は欧州全体で2万5000件の感染例が報告されたが、2024年は最初の3ヶ月だけで昨年1年を上回る3万2000件の感染例を記録した。(フランス・ブルー、6/4)
◆新型コロナパンデミックとの関連
感染急増の一因として、パスツール研究所のブリス氏は、コロナ期間中の感染予防措置で免疫力が低下しているところに、コロナで遅れた流行のピークが来たことをあげている(フランス・アンフォ)。
欧州疾病対策センター(ECDC)も、新型コロナのパンデミック期間中に人々の百日せきへ暴露量が低かったことが、現在の急増の一因である可能性を示唆している。ECDCが5月8日に発表した報告書の中で述べるように、感染症の小規模な伝染は、「自然のブースターとして機能し、集団全体の免疫力の向上に寄与し、これにより大規模な流行のリスクを抑えている」と考えられるからだ。
さらに、ほかの専門家らは、パンデミック期間中、百日せきのワクチン接種率が低下したことも原因の一つではないかと述べている(フランス・ブルー)。
◆過去40年来、例のない速さ
この事態を受け、フランス公衆衛生局は4月半ばに全国的に注意を呼びかけた。また、乳児の死者が出た北部のリールでも、病院の小児救急科責任者が、妊婦と新生児の家族にワクチンの追加接種を呼びかけている。
パスツール研究所のブリス氏は、メディアのインタビューに応え、「感染数の多さもさながら、これだけの速さで感染が広がるさまは、過去40年以上例のないことだ」と明言。パリ・オリンピックとパラリンピックを控えたこの夏、感染がこれ以上広がらぬよう、対象者への追加接種の重要性を説いている。(フランス・アンフォ)