条件つきで家賃無料も 住宅難の仏、斬新な「シェア住宅」登場

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 近年、住宅不足が深刻化しているフランスでは、世代や社会環境を超えた新しい住宅シェアの形が模索されている。形こそ異なるが、いずれも貸し手と借り手がウィンウィンとなることを目指すものだ。

◆住宅不足の深刻化
 インフレに伴う金利の上昇、新築建設不足による市場の不動産物件の減少により、フランスでは住宅難が年々深刻だ。ただでさえ需要に供給が追いつかないなか、中古も新築も市場に出回る物件は高額すぎ、平均収入世帯や若年層には手が届かない状況だ。

 実際、2023年の中古不動産取引数は22%減少し、新築の建築許可数も25.5%減少。過去1年の住宅着工件数は29万4700件で、これは、フランス建築連盟のサルロン会長が見積もる1年に必要な着工数の40~50万件を大きく下回る。(金利・不動産情報サイト『メイヤー・トー』)

 マネーヴォックスによると、賃貸住宅の物件数も、2023年末までの2年間で36%減少。その傾向は都市部において特に顕著で、過去3年間の減少率は、全国平均39%に対してパリでは74%だった。これは、観光客の増加に伴い、長期賃貸物件を民泊に切り替えるケースが増えていることと無関係ではない。

◆住まいが確保できない若年層
 メイヤー・トーによれば、現在住所不定のフランス人は33万人いるが、その3割は職に就いている。つまり、仕事をしていても住居を確保できないケースがあるということだ。

 住宅難のあおりを一番受けるのは若い世代だ。2023年には12~17%の学生が、住居が見つけられなかったことが原因で、志望校への進学をあきらめている(フランス・アンフォ)。

◆高齢者住宅が学生に部屋提供
 このような状況のなか、リル・アクチュ紙(5/30)によると、全国で高齢者向け住宅を開設しているドミティス・グループは、そのうち6つの集合住宅において、学生の同居人を募集すると発表した。高齢者らのアクティビティに週約15時間参加するという条件つきだが、家具つきの個室を持てるほか、施設内のジムやプールの利用も可能で、しかも家賃は無料のため、競争率は相当高くなると見込まれている。これなどは、若者には住宅を提供し、高齢者には若者との接点をもたらす、いわばウィンウィンの企画といえよう。

 こういう「世代間同居」の概念は、最近生まれたものではない。フランスでは2004年ごろから高齢者による若年層への部屋貸しが広がり始め、2018年には、法的にも制度が整備された。60歳以上と30歳未満をつなぐこの制度は、両者に恩恵があるものとして、国民にもおおむね肯定的に捉えられている。

◆高齢者住宅内に託児所
 また、世代間交流を促進させる試みは、託児所不足問題の解決にも応用されている。2018年に創立されたスタートアップ、トム&ジョゼット社は、高齢者住宅内への小規模な託児所設置を行っており、すでに全国で10ヶ所がオープンしている。これは、子供と高齢者のふれあいを目的としており、両者は、週2、3回、本の読み聞かせや、庭仕事、工作などのアクティビティをともにしている。(ラ・ガゼット誌、2/21)

 共働きが基本のフランスでは、恒常的に託児所が不足しており、トム&ジョゼット社によれば、小さな子供を持つ親の42%が託児所を見つけられないでいる(アクチュ・ボルドー紙)。

 同社の活動は、子供たちと高齢者たちだけでなく、子供の保護者にとっても得ることが多いウィンウィンウィンの関係を作り出しているとも言える。同社は今後数年のうちにこういった託児所を100ヶ所開くことを目的としている。

◆異なる社会層間の交流促進にも
 そのほか、住宅問題を解決しようとする動きは、世代間交流だけでなく、社会層間の交流にもつながっている。たとえば、農場による学生への部屋貸しがそうだ。学生にとっては広く静かな空間を安価で借りることができ、農場側にとっては定収入が保証されるという利点がある。さらに、農場の日常を広く知ってもらうことにもつながる。

Text by 冠ゆき