危険な乱気流増加…空のルールが変わるか 死傷者出る事故相次ぐ

バンコクに緊急着陸したシンガポール航空の旅客機(5月22日)|Sakchai Lalit / AP Photo

 最近、航空機が乱気流に巻き込まれ、死傷者が出る事故が立て続けに起きた。乱気流を探知する技術は向上しているが、いつどこで発生するかを正確に予測することはできないのが現状だ。気候変動により乱気流は増加傾向で、航空会社は機内対策を強化している。

◆心臓発作で死亡も… 突然の揺れに対処できず
 乱気流は、大気の乱れにより飛行中の航空機に動揺を与える気流を指す。突然の横揺れや縦揺れの原因となり、オーストラリアの民間航空機関によれば、乗務員や乗客が機内で負傷する最大の原因となっている(ガーディアン紙)。

 最近では5月21日、シンガポール航空の英ロンドン発シンガポール行きの旅客機が、ミャンマー上空で激しい乱気流に遭遇した。これにより、イギリス人乗客1人が心臓発作で死亡し、数十人が負傷。パイロットは緊急事態と判断し、タイのバンコクに向かった。シンガポール運輸省は、当該機が「重力の急激な変化に見舞われたため、シートベルトをしていなかった乗客が空中に投げ出された可能性が高い」という見方を示した(ロイター)。

 この事故のわずか5日後の26日には、カタールのドーハからアイルランドのダブリンに向かっていたカタール航空の旅客機が、トルコ上空で乱気流に巻き込まれ、乗客乗員に負傷者が出ている。ロイターによれば、揺れは食事の提供時に発生したと乗客の一人が話している。

◆技術向上も予測困難 頻発地域や時期も
 グリフィス大学のグイド・カリム・ジュニア博士によれば、一般的に乱気流は高い山、海、赤道上、そしてジェット気流(対流圏上層にある強い偏西風の流れ)に入るときに発生する。だが、高度に関係なく晴天中に発生する晴天乱気流の場合は、いつでもどこでも発生する可能性があるという。(ガーディアン紙)

 元パイロットでもあるカリム博士は、乱気流は非常に複雑な要因が絡み合って発生すると指摘。探知のためのレーダー技術は向上しているが、機内のあらゆる機器設備をもってしても、乱気流がいつどこで発生するかを正確に予測することはできないと述べている。(同)

 ちなみに、乱気流が起きやすいことで有名なのは、モンスーン期のベンガル湾やアルプス上空だ。また、アンデス山脈上空の国際線では、山に近づくとシートベルト着用サインの点灯が義務付けられているという。乱気流は湿度と気温が高いほど強まる傾向があり、ロンドンからニューヨークへのフライトは、夏の揺れのほうが大きくなる可能性があるという。(同)

◆気候変動で増加か? 航空会社も対応必至
 ビジネスニュースサイト『モーニング・ブリュー』は、気候変動も乱気流の原因となるジェット気流を強めていると述べる。ある研究は、1979年から2020年の間に、北大西洋上空で「激しい」または「それ以上」の晴天乱気流が55%増加したと結論づけている。別の研究でも、地球が高温になるにつれ、晴天乱気流はより深刻になり、頻発するようになるとされた。

 対策として、20マイル(約32キロ)先の晴天乱気流を発見できる技術、LiDAR(光検出と測距)の使用が期待されるが、現在のところ商業用フライトに常備するには大きくて高価すぎるという問題があるとモーニング・ブリューは指摘している。

 事故を受け、シンガポール航空は乱気流に対し今後より慎重なアプローチを取ると発表。シートベルト着用サイン点灯時は、ホットドリンクや食事のサービスを停止し、揺れが激しい場合、客室乗務員は座席に戻りシートベルトを着用することが義務付けられるという。

 テレグラフ紙によれば、航空関係者のなかには、乗客は常にシートベルトを締め自主的に安全を確保すべきという意見もある。また、アメリカの客室乗務員組合のなかには、2歳未満の子供にも、親の膝でなく座席を与えることを働きかけているところもあるという。今後は機内の常識やルールが、大きく変わる可能性もありそうだ。

Text by 山川 真智子