インド産スパイスから発がん性物質か インド側否定も各国が調査

PradeepGaurs / Shutterstock.com

 インドは世界最大のスパイス消費国だが、輸出も盛んで、世界のスパイス輸出の12%を占めている。ところが最近、インド企業が製造したスパイスの一部に、発がん性物質が高濃度で含まれている疑いがあるとして、香港とシンガポールが販売を停止した。アメリカや欧州連合(EU)などでも調査に乗り出しており、スパイス輸出大国の地位を揺るがしかねない事態となっている。

◆発がん性物質検出 各国が調査へ
 インド香辛料局(Spice Board of India)によれば、インドでは200種類以上のスパイスとその加工品を約180ヶ国に輸出しており、市場規模は40億ドル(約6300億円)にのぼる。しかし先月、香港とシンガポールで、インド企業MDHとエベレストが製造したスパイスの一部に、発がん性があるとされる化学物質、エチレンオキシド(酸化エチレン)が高濃度で含まれている疑いがあるとして、販売が停止された。(BBC

 ロイターによれば、MDHとエベレストはインドでは有名なブランドで、その製品はアメリカ、欧州、東南アジア、中東、オーストラリアなど世界中に輸出されている。高濃度の発がん性物質検出のニュースを受け、アメリカ食品医薬品局(FDA)やEUも、問題の2社の製品の調査を開始。モルディブ、バングラデシュ、オーストラリア、ニュージーランドの当局も追随している。

◆企業側は反論 政府も報道を否定
 一方、MDHとエベレストは、厳しい衛生・安全基準を遵守していると述べている。エベレストは、自社製品60個のうち、検査の対象となったのは1個だけだと主張。製品は安全、高品質であり、心配は無用だとした。MDHは、シンガポールや香港の規制当局から連絡を受けてはおらず、報道されている事実はないとしている。同社は100年以上の歴史を持つ老舗で、スパイスの保存、加工、包装のどの段階でも、エチレンオキシドは使用していないと説明している。(タイムズ・オブ・インディア紙

 インドの食品規制当局は、スパイスの全メーカーに対する全国的なチェックを発表したが、あくまでも品質を保証するための包括的なものであると改めて強調した。「高濃度の農薬が含まれている」というような報道を、「誤解を招き根拠がないもの」として否定している。(同)

◆過去にも汚染が… 求められる安全対策の見直し
 BBCによれば、インド産スパイスの汚染が発覚したのは、今回が初めてではない。2021年以降、アメリカに出荷されたMDHのスパイスの平均14.5%にバクテリアが見つかり、拒否されていたという。また、2014年に、インドのコルカタで科学者が人気ブランドのスパイスをテストしたところ、製品に鮮やかな色をつけるために使用されている食用色素から鉛を検出したという。

 インドの研究者で環境活動家でもあるナラシマ・レディ・ドンティ氏は、ここ数年、政府の目が行き届かず、インドのスパイスのイメージは低下しているとBBCに述べる。エチレンオキシドの汚染がどの段階で起こっているかは不明だが、農家では使われていないため、おそらく収穫後か、加工過程における残留物ではないかとした。

 タイムズ・オブ・インディア紙は、食品加工に関するルール施行の緩さや、検査のためのインフラの不足などが、今回のような問題の原因になっていると指摘している。

 今後各国で連鎖的に規制措置が行われれば、輸出に甚大な影響が出る可能性もある。専門家は、食品の安全性に対するアプローチを根本的に見直すことが必要だとしている。

Text by 山川 真智子