欧州もデング熱、マラリアに警戒 温暖化で感染リスク拡大

ネッタイシマカ|Tacio Philip Sansonovski / Shutterstock.com

 蚊を媒介とするデング熱やマラリアといった感染症の発生は、熱帯地域だけではなくなっている。日本でも最近デング熱の発生が確認されているが、ヨーロッパではデング熱やマラリアを媒介する蚊の生息が確認され、感染件数が増えている。特にオリンピックを控えるフランスは目下、感染リスクに神経をとがらせている。

◆パリ、デング熱への感染リスクに警戒
 デング熱は、ウイルスを持つ蚊などに刺されることで人に感染する疾患である。厚生労働省によると、2~14日(通常3~7日)の潜伏期間後、突然の発熱で発症し、激しい頭痛、関節痛、筋肉痛が現れる。発症後、3~4日後から胸部・体幹から発疹が出現し、全身に広がるが、通常1週間程度で改善し、後遺症なく回復する。多くの場合、無症状であるが、場合によっては重症化し、死に至ることもある。

 専門家は、蚊が媒介する感染症が気候の悪化により世界中、特にヨーロッパで蔓延していると指摘する。世界保健機関(WHO)によると、2019年に世界で報告された症例は520万人で、過去20年間で10倍に急増。

 夏季オリンピックを目前に控え、国内での感染拡大に警戒を強めるフランスでは、保健当局によると、今年1月からのフランス本土におけるデング熱の輸入感染症例は1679人を超えた(昨年の同時期は131人)。その大半がフランスの海外領土であるグアドループとマルティニークからのものとされる。

 フランス公衆衛生当局は、デング熱の多い地域に旅行する際は、肌を覆うゆったりとした衣服を着用し、虫除けスプレーや蚊帳を使用して蚊に刺されないようにする必要があると注意を促す。それらの地域から帰国後に発熱した場合は医師に相談し、引き続き蚊に刺されないように対策を講じることを推奨している。

◆イギリスではマラリア発生に警戒
 科学者たちはイギリスに対し、気候変動により蚊が発生し、マラリアやデング熱などの病気が流行すると警告している。

 イギリス健康安全保障庁(UKHSA)によると、イギリスにおける昨年の輸入マラリア患者数は20年以上ぶりに2000人を超えた。イングランド、ウェールズ、北アイルランドで海外渡航後にマラリアへの感染が確認された症例は、2022年の1369人に対し、2023年は2004人に達した。

 厚労省によると、マラリアは1~4週間ほどの潜伏期間をおいて、発熱、寒気、頭痛、嘔吐、関節痛、筋肉痛などの症状が出る。5種のマラリアがあるが、なかでも熱帯熱マラリアは発症から24時間以内に治療しないと重症化し、しばしば死に至る。

◆蚊媒介感染症、アジア・欧州各地に拡大
 イギリスの研究機関の専門家は、温室効果ガスの排出量が増加し続ければ、マラリアとデング熱の危険にさらされる地域に住む人々の数が2100年までに世界中で最大47億人増加する可能性があると予測する。

 スペインのバルセロナ・スーパーコンピューティング・センターでグローバル・ヘルス・レジリエンス・グループを率いるレイチェル・ロウ教授は、蚊を媒介とする感染症が、気候の悪化により今後数十年の間に北ヨーロッパ、アメリカ、アジア、オーストラリアといった現在感染が発生していない地域にまで拡大する可能性があると警告する。「気候変動による地球温暖化は、マラリアやデング熱を媒介する媒介生物がより広い地域に生息することを意味する。免疫レベルが低く、公共衛生システムが準備されていない地域では、感染の流行が発生する」(ガーディアン紙、4/25)

 マラリアやデング熱のような病気を媒介する昆虫は、地球温暖化によって、より暖かく、より湿度の高い環境を好むようになったため、過去80年間でその発生率が大幅に増加。かつては主に熱帯や亜熱帯地域で発生していたが、暑い季節が長くなり、霜が降りる頻度も減ったため、世界で非常に急速に広まり、ヨーロッパでは定着しつつある。

 デング熱の媒介蚊のヒトスジシマカ、通称「アジアンタイガー・モスキート」は2023年の時点で、ヨーロッパのイタリア、フランス、スペイン、マルタ、モナコ、サンマリノ、ジブラルタル、リヒテンシュタイン、スイス、ドイツ、オーストリア、ギリシャ、ポルトガルの13ヶ国にすでに定着しているとされる。

Text by 中沢弘子