愛犬と3ヶ月太平洋漂流、生魚で延命…豪男性がメキシコの漁船に救助される

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 3ヶ月もの間、愛犬とともに太平洋を漂流し、メキシコのマグロ船に救助されたオーストラリア人の船乗り、ティモシー・リンゼイ・シャドック氏(54)は7月18日、苦難の船出をしてから初めて陸地に上がり「生きていることに感謝している」と語った。

 救助されたマリア・デリア号の船内で身体検査を受けた後、メキシコの都市マンサニージョに降り立った。メキシコシティから西に約337キロ離れた港町の埠頭で、顔中に鬚を生やした細身の同氏は記者団に対し「体調は問題ない。本当に、前よりもずっと気分がいい。助けてくれた船長と会社には、ただただ感謝している。私は生きている。本当に助かるとは思っていなかった」と話し、行動をともにした奇跡の愛犬ベラも元気だと付け加えた。

 一人で海にいるのが好きなおとなしい性格というシャドック氏は、4月にメキシコのバハ・カリフォルニア半島から太平洋を横断してフランス領ポリネシアを目指した理由を尋ねられると、最初は戸惑いながら、「自分でもよくわからないが、航海は楽しく、私は海の人間が好きだ。私たちが一つになれるのは海の人々のおかげ。この海は私たちのなかにある。私たちは海なのだ」と述べている。

 同氏の双胴船は半島の都市ラパスを出航した数週間後、悪天候のため航行が不能になった。最後に陸地を見たのはコルテス海から太平洋に出た5月初旬だったという。満月の夜だった。

 十分な備えはあったものの嵐の影響で電子機器や調理器具が使えなくなり、ベラと一緒に生の魚を食べて生き延びた。

 シャドック氏は「悪い日がたくさんあったが、良い日もたくさんあった。エネルギー補給と疲労が一番つらかった」としつつ、漂流している間は器具の修理をしたり、ただ水の中にいることを楽しむために海に入ったりして前向きに過ごしたという。

 陸地から約1930キロ離れたところでマグロ漁船のヘリコプターによって発見されたとき、人の姿を目にしたのは3ヶ月ぶりだった。パイロットが飲物を投下してひとまず飛び去ると、まもなく高速ボートのマリア・デリア号が来てくれたという。

 救助の時期について、漁船運航会社グルポマールは詳細を明らかにしていない。だが同社は声明のなかで、発見時のシャドック氏と愛犬は食料も避難する場所もない「不安定な」状態にあり、乗組員が医療手当てを施し食料と水分を与えたとしている。

 マグロ漁船に移ったベラはすぐに乗組員の間で人気者になったという。シャドック氏はベラについて「出会ったのはメキシコの繁華街だった。メキシコ生まれの雌犬だ。情熱の国のスピリッツを持っており、私を離してくれなかった。3回も引き取り手を探そうとしたが、結局海までついてきた。私より勇ましいのは間違いない」と話している。

 そのためか、シャドック氏が18日に下船するまでベラはボートにとどまっていた。よく世話をしてくれることを条件に、マサトランに住む乗組員ジェナロ・ロサレス氏に託すことにした。

 シャドック氏は「オーストラリアに帰り、家族に会うのを楽しみにしている」と語った。

 過酷な苦難を強いられる海難事故は過去にも例はあるが、すべてが今回のような結末を迎えたわけではない。

 2016年には太平洋で2ヶ月漂流したコロンビアの漁師がハワイの南東3220キロ以上の地で救助されたが、乗組員のうち3人が死亡した。仲間とともにコロンビア沖で漁をしていたが、小型船のモーターが故障して漂流したという。

 2014年には、エルサルバドルの漁師が1年1ヶ月も漂流した後、マーシャル諸島にあるエボン環礁に漂着した。ホセ・サルバドール・アルバレンガ氏は2012年12月、サメ漁でメキシコを出港した。8850キロも離れた海岸に漂着するまで、魚や鳥、カメを食べて生き延びたという。

 船は発見されたものの生存者がおらず、完全に行方不明とされたケースもある。

 国際移住機関(IOM)によると、2014年以降、地中海を渡ってヨーロッパに向かおうとした難民2万人以上が命を落としている。

 漁船運航会社グルポマールのアントニオ・スアレス社長は18日、同社が船隊の刷新を図っていることに加えマリア・デリア号は小型で運航歴も50年を超えているため、今回が最後の航海になったかもしれないとして「人の命を救うという任務を成し遂げて有終の美を飾ってくれた」と話している。

By MARÍA VERZA Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP