子供がトイレで溺死…危険な「ピット式」、南アフリカの3000以上の学校に
南アフリカ北部の地方にある高校には、300人もの生徒と教職員が使えるトイレは3つしかない。だが、問題なのは不十分なトイレの数ではない。
昼休みに生徒たちが列をなす3つのトイレは、地中に深さ3メートルの穴を掘って作った「ピットトイレ(訳注:掘った穴の中に糞尿を貯める原始的なトイレで、ピットラトリンともいう)」なのだ。
ガ・マシャシャネ村のセイポネ中学校にあるピットトイレには白く塗られた便座があり、周りはレンガの壁で覆われている。南アフリカの貧しい過疎村にある3300以上の学校で使われているピットトイレには、それすらもないところがある。
一定の基準に満たない学校のトイレを撤去するよう政府に求めている人権団体の活動家たちは、アフリカで最も発展しているとされるこの国としては恥ずかしい話で、貧困と不平等という深刻な問題を抱えていることが表れていると話している。
こうした屋外トイレは不衛生であるだけでなく、実は危険と隣り合わせなのだ。
ジェームズ・コマペ氏は2014年1月のある日、近くにあるチェベン村でおぞましい光景を目にした。
子供が通う幼稚園から至急来てほしいという連絡を受けて駆けつけると、ピットトイレの底で5歳の息子マイケルが溺死していた。その時、遺体は穴の底にある糞尿交じりの汚水に沈み、取り出されてもいなかった。
コマペ氏は「あの時ショックだったのは、トイレに落ちたのを見た人たちが誰も助け出てくれなかったことだ。責任者が来て、子供を穴から引き出すのを待っていたなどと彼らは話していた。すぐに救出していれば助かったかもしれないのに」と憤りをあらわにした。
マイケルが園に通い始めてまだ1週間しか経っておらず、国民の多くは子供の痛ましい死に強い怒りを覚えた。同氏らはリンポポ州の教育当局を提訴し、判決で損害賠償を勝ち取った。その後、裁判所は政府に対し、学校にピットトイレが設置されている問題に早急に対処するよう求めた。
だがこうした悲劇は後を絶たず、4月には女児が、3月には男児がピットトイレに落ちて亡くなるなど、この10年で多くの子供が溺死している。ピットトイレで命を落とした子供の人数について、信頼のおける統計はないという。
定期的に汚水を排出する機能を備えたピットトイレは、下水設備を必要としないこともあり資金難にあえぐ学校からすると経済的であり、しかも実用的でもある。
マイケルが通っていたリンポポ州のジュピター・プレスクール兼保育所では3歳ほどの幼児が、ふさわしい便座もなく、コンクリート板をくり抜いた穴の下に空間が広がるピットトイレを使っている。
同校マネージャーのフロリナ・レドワバ氏は「子供がトイレに転落する可能性があり、決して好ましい状況ではない。私たちは片時も子供から目を離せない。彼らだけでトイレに行かせたらどうなるか? 危険きわまりない話だ」と話している。
人権団体「イコール・エデュケーション」は、南アフリカ国内にある学校に設けられたピットトイレを調査してきた。学校生活における子供たちの安全という政府が最優先で対応すべき課題が今なお解決されていないことに、代表のタイニー・レベロ氏は不満を持っている。
今年3月末までに全国の学校にあるピットトイレを刷新すると政府は公約したにもかかわらず、約束は果たされていない。モチェハ基礎教育相によると、ピットトイレがある学校が今も3398あり、交換期限も2025年に延期された。
レベロ氏は「政府の対応には、地方に住む人々に対する偏見がある」とした上で、「田舎の人たちは人の尊厳に値しない、だからごく普通のトイレも与えなくていい、ピットトイレを使っているのだからそれで十分という考え方なのだ。だから来年、2年後、10年後、数十年後もそのままで良しとする。尊厳に値しないと言っている」と指摘する。
人権団体「セクション27」は、安全かつ適切な衛生施設の設置とピットトイレの廃止を求めている。マイケルの遺族が地元と国の教育当局に対して起こした訴訟の援助をしたほか、リンポポ州でピットトイレを使用している学校とトイレの交換計画について、当局は半年ごとに最新情報を公表しなければならないという裁判所の判決を勝ち取った。
政府の活動をモニタリングするシステムを「マイケル・コマペ・サニテーション・プログレス」と名付けた。追跡情報を活用すれば教育当局に一定の責任を課すこともできる。
リンポポ州でピットトイレのある学校数が2021年の363から現在の210まで減少するなど、当局は一定の成果をあげてはいる。だがコマペ氏によると、ピットトイレ全廃という合意は実現に至っていないほか、多くの子供たちが今なお本当に危険な状態にあるという。
セイポネ中学校では、ピットトイレの公式名は換気改善トイレ、単語の頭文字をとって「VIPトイレ」というがVIPとは程遠い代物だ。生徒からも怒りや反発の声があがっており、生徒会長を務めるテボゴ・マクゴカ(17)は「(黒人の命も大事だけど)生徒の健康も大事だ。こんなトイレは使えない」と話している。
By MOGOMOTSI MAGOME Associated Press
Translated by Conyac