保守州カンザス、住民投票で中絶禁止に「ノー」 バイデン政権に追い風

中絶権をめぐる住民投票の結果に喜ぶカンザス州民(8月2日)|Tammy Ljungblad / The Kansas City Star via AP

 現在保守派判事が過半数を占めるアメリカ最高裁で6月2日、1973年に「妊娠中絶はプライバシーの権利に含まれる」とした判決「ロー対ウェイド」が覆された。それ以前から保守的な州では妊娠中絶に関する法律を厳格化していたが、最高裁の判決後はその決断が各州に任されることになったため、南部や中西部の保守州ではほぼ全面的に中絶手術を禁止する州法が次々に成立していった。

 しかし保守的な州のなかでも、まだ中絶を容認している州もいくつか存在する。その一つが中西部カンザス州だ。同州は2020年の大統領選でもトランプ氏が56.2%の票を獲得して圧勝した州だが、米公共ラジオ放送のNPRによると、同州最高裁が2019年、中絶の権利が同州憲法により保護されているという判決を下したことからいままでそれが守られてきた。しかしロー対ウェイドが覆された後、同州の保守派による提案でこの中絶に関する州憲法を改正するための住民投票が行われることになった。しかもそれは11月の中間選挙時ではなく、中絶権削除の票が多くなることを狙い、投票数の少ない8月2日実施の予備選挙とともに開催された。
 
◆共和党州で中絶擁護派が6割近くも
 この住民投票は、カンザス州がいわゆる「レッドステート(赤の州)」と呼ばれる保守州であったことから、そこに住む民主党だけでなく共和党や無党派の人々が中絶の権利はく奪について、本当にどう考えているのか、そして今年の中間選挙にどのような影響を与えるのかを知るためのテストとして、全米の注目を集めていた。

 事前の世論調査結果が5分5分だったことや、元々が保守傾向の強い州であることから、州憲法改正を是とする票が上回ると思われ、「プロライフ」と呼ばれる中絶禁止支持派が勝利する可能性が高いと考えられていた。しかし蓋を開けてみると意外なことに、大都市やその近郊での票が圧倒的に州憲法改正反対、つまり「プロチョイス」と呼ばれる中絶禁止反対派だったことから、最終的には改正反対票が59%、賛成票が41%となり、女性たちの中絶の権利が守られる結果となった。民主党や無所属だけでなく、共和党支持者のなかにも改正反対の人々が多く存在したということだ。これは予備選前に同州で州憲法改正投票についての理解を深める努力を草の根レベルで行い、投票を促していたプロチョイス派の活動による部分が大きいだろう。

Text by 川島 実佳