バッファロー銃乱射は憎悪犯罪 右派が広める「人種交代説」とは

銃乱射事件のあったスーパーを訪れるバイデン大統領夫妻(5月17日)|Andrew Harnik / AP Photo

 銃大国アメリカでは、銃乱射事件がすでに日常茶飯事になりつつあり、自分や自分の家族・知人が巻き込まれない限り、人々は精神的に麻痺してしまっている感がある。銃による死傷事件・事故の統計サイト『Gun Violence Archive』によると、5月24日現在、銃による死者は今年だけで1万7056人で、すでに2020年の総数1万9411人に迫る勢いだ。ちなみに、自殺を含む銃による死者は、新型コロナウイルス前の2019年から、その後2020年に急激な増加傾向を見せており、パンデミックが人々に精神的影響を与えていることが伺える。

 そんななかで今月14日にもニューヨーク州のカナダ国境付近にある都市バッファローで銃乱射事件が発生し、10人が死亡、3人が負傷した。しかしこの事件は「無差別」ではなく、黒人人口を狙った事件である「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」として、ほかの事件とは一線を画していたのである。

◆事件の元は右派の陰謀論「白人交換説」
 NBCニュースによると、バッファローの乱射事件の容疑者は18歳の男性で、犯行は同市の黒人居住区に位置するスーパーマーケットで行われ、容疑者は銃撃する様子をライブストリーミングで動画配信した。銃撃を受けた13人のうち11人は黒人で、同市警察によると、その後も別の場所に移動して黒人の人々を狙い銃を乱射する予定だったという。警察ではこれを黒人を狙ったヘイトクライムとして捜査している。

 この容疑者はまた事件前に白人至上主義者により推進されている陰謀論を説いた、180ページに上る声明をインターネット上で公開している。その陰謀論というのが「リプレースメント・セオリー」と呼ばれる、「ユダヤ人(イスラエル人)の秘密結社が白人人口とマイノリティを取り換えようとしている」といういわば「人種交代説」である。

 移民の国アメリカでマイノリティ人口が増加しているのも、それらの人々の社会進出が著しくなっているのも事実だが、それは自然な社会の流れであり、もちろんユダヤ人が裏で操っている陰謀ではない。しかし白人至上主義者にとっては、このような人口と社会的変遷が「リベラル(左派、民主党)が白人人口を滅ぼそうとしている」という被害妄想に繋がっているという。アメリカの極右派は、アメリカで何か事件が起こると、それをすぐにユダヤ系実業家のジョージ・ソロス氏のせいにする傾向が強いが、これもその流れだろう。そしてこのリプレースメント・セオリーを視聴者に推しているのが保守派人口に支持を受けるテレビ局「フォックスニュース」であり、そしてその人気テレビ司会者のタッカー・カールソンなのである。

Text by 川島 実佳